第82回 日本とアメリカの人事制度の違いについて

平成31年3月19日

■日本とアメリカの人事制度の違いについて

前回はアメリカの賃金体系について話をしました。アメリカではコース別の採用で、企業に入社するというより、職務を得るというのが特徴です。一方、日本では職務を得るというスタンスではなく、企業に入るというのが普通です。なお、アメリカにおいて、大幅に賃金を上げる為には転職が不可欠です。
今日は日本とアメリカの人事制度の違いを整理しながら復習していきたいと思います。もちろん、大企業なのか中小企業なのか、或いは業種によって、異なる点はある訳ですが、ここでは一般的な話をしていきたいと思います。

●日 本
年功序列(年功序列の中の実力主義)
終身雇用
賃金が平均的
長期的
永年勤続制度
月給
集団的労働条件
企業年金

●米国
実力主義(成果主義、能力主義)
転職が主流
格差社会(アメリカンドリーム)
短期的
殆どの企業で永年勤続制度がない
年俸
個人的な契約
年金がモバイル(持って行ける)

これらの要素の他に時代という側面も重要です。日本が何故この様な賃金体系になっているのかというと、労働組合が毎年春闘を重ねた事で、賃金が毎年上がっていたからです。しかし、昭和と平成の春闘の在り方は全然違います。私は幸か不幸か昭和と平成の春闘を経験してきましたので、その違いが良く判ります。
ところで、今日の日経のトップに衝撃的な記事が載っていました。先進国はこの20年間で日本だけが9%賃金が下がっているそうです。そう考えると、私は良い時代に生きてきたなあと思います。平成に入ってから、春闘も様変わりしています。象徴的なのが今年度の春闘で、連合は一律の賃金アップを要求しなかったそうです。絶対額で何歳でこういうポストにいる人は○○円を下回らないようにとガイドラインを作成する様、要求をしたそうです。昭和の春闘とはすっかり変わりました。
ではアメリカには春闘があるのかというとあまり聞いた事がありません。日本は労働協約が主体でアメリカは個別の契約を重視します。日本では就業規則が重要で、その上に労働基準法があります。個別の契約を重要視するアメリカでは、必然的に労働組合の活動は脆弱です。
日本において、昭和の時代は労働組合が本当に強かったです。昭和の時代は労働組合の組織率が6割~7割ありました。今は17%程度との事です。2割を切ると労働組合の存在価値は薄れてきます。我々の時代は迫力が全然違いました。最近の日本はだいぶアメリカナイズされてきている様に思います。
次に年金制度の話をします。日本の一般の会社員は基礎年金と厚生年金と企業年金があり、老後になれば大きな糧になります。アメリカも年金は非常に充実していて、大事にしています。日本の企業年金もかなり充実していますが、アメリカも同様企業年金の関心度は高いようです。

■日本とアメリカの業績評価について

次に業績評価の話をします。日本では人物や貢献度で点数をつけて評価をします。
アメリカではコンピテンシーという人事評価の考え方があります。優秀な社員の「行動特性」を分析します。それに基づいて全社員を項目毎に評価をします。私が訪れた頃のアメリカはコンピテンシーが全盛期でした。
また企業の役割として最近イノベーション(創造性)という話がたくさん出てきました。またダイバーシティー(多様性)という話も出ています。このような時代に金太郎飴を作ってどうするのかという話になっているそうです。
日本でもダイバーシティーの時代で企業も色んな人がいて良いのではないかという事で女性や外国人の活用を進めています。政府は女性の役員比率や外国人の雇用率を上げるように勧めているそうです。
世に出る商品を作る人がどのような人なのかを調べたところ、極論すると100の内99は失敗だったそうです。ですが、1つでも成功すればアップルのようになるそうです。9時~18時迄真面目に働くよりも成果を出した人を認めてあげるのが重要であるという時代に変わってきています。
アメリカの人事評価もこのように変わってきています。本当の意味で企業に貢献する人間を育てるためには簡単に結論を出さない、型からはみ出した人間を許容してあげるのがダイバーシティーであり、イノベーションなのではないかとの事です。したがって、今のアメリカではコンピテンシーは時代遅れで駄目な考え方という事になってきています。
ただし、ここで誤解してほしくないのは上層部と中堅社員と一般社員の評価はまるっきり違うという事です。一般社員については、定型の仕事が多いのでコンピテンシーで良いと思います。しかし、中堅社員や上層部は現在はダイバーシティーやイノベーションを求められている為、それに対して評価をすべきだと思います。