第87回 小職のリーダー論について

令和元年9月17日

■千年企業研究会の目的・意義について

何度もお話ししておりますが、我々が勉強している事の基本となる事を改めてお伝えしたいと思います。

『私の経営論』(福井会長)

「経営とは、その企業の専門分野に精通し、倫理観を大前提にマーケティング論、会社法、会計学、労働法、法人税法等を駆使しつつ、一つ一つの意思決定に真摯に向き合い、永続的に発展させることである。」

私なりに経営とは何かと考えると、私は上記の様に思っております。
その中で、会社法、会計学については既にお伝えし、今は労働法についてお伝えしているところですが、今はその労働法に関して、45年程前に私がアメリカに行った際の経験をもとにアメリカの人事制度について感じた事をお伝えしている訳です。
本日はその中でもリーダーシップ論についてお伝えしたいと思います。
少し話を戻しますが、この千年企業研究会を通じて、ひとつひとつ知識面を吸収して頂きたいと思います。ではその知識は何の為に必要かというと、会社とは常に色々な“意思決定”を行い、“永続的に発展”させなければなりません。その“意思決定”についての参考にして頂ければとお話をさせて頂いております。
この“永続的に発展させる”という事においては、“最適な利益の確保”という事が大切で、儲け過ぎても良くない訳です。あくまでも“適正な”利益を確保する事が企業を存続させる為には重要です。利益というものは適正な利益を確保しておかないと企業の永続性は保たれません。企業会計原則の中でよくGoing Concernという言葉が出てきます。Concernという単語は関係性を表す言葉であると共に“会社”と翻訳されることがあります。Going=永続的、Concern=会社という事で会社というものは永続的に発展させなければいけないという事です。
つまり会社が永遠に発展するという事が大前提で終わりがないという事になりますが、ずっと続いているものの状態を査定するという事は難しい為、会社の状態の確認をし易くする為にある一定の期間を区切って処理を行ういわゆる“決算”という会計的な処理を行っている訳です。決算という手段により一定の期間で区切っていますが、根本的には企業は永続的に発展しているという事を理解して頂ければと思います。

■小職のリーダー論について

どの時代でも、どこの世界でもリーダーのあるべき姿というものに大差はないという事が言えると思います。

(1)なんでも否定から入る人はリーダー向きではない。

否定しなければいけないこともあるかもしれませんが、なんでも否定から入る人はリーダー向きではなく、前向きな人、積極的な人の方が良いリーダーになれる。

(2)リーダーは信頼される人間であれ

これは当然の事ではあります。

(3)リーダーの大前提は「人間性」である。

ヒューマンリレーションズという言葉を良く使っていました。
「人間関係」・「人間性」という言葉は漠然としてしまいがちですが、一つの側面としては、「倫理観」ということが言えると思います。むしろこれが何事にも勝る重要なポイントです。皆さんがとにかく常に自覚しなければならない事は人間性という事であり、人間性の一つの要素である倫理観はもちろんですがもっと幅の広い「人間的である」という事が大切であると言えます。

(4)リーダーとは部下にやる気を出させる存在である。

これについて明確な方法論はありませんが、具体策として「目標設定」というものがあります。「数値目標」の他にも「数値以外の目標」というものがあるという事をぜひ理解し参考にして頂きたいと思います。その「数値以外の目標」の例として有名なレンガ工のお話をしたいと思います。
(例)あるレンガ工(れんがこう)の話
ここに3人のレンガ工(れんがこう)がいる。
このレンガ工になぜレンガを積んでるのかを尋ねた。

Aレンガ工…今日1日で〇〇個のレンガを積まなければなりません
(いくつ積むか…数値について理解し目標としている)
Bレンガ工…ここからあそこまでの壁を作るように言われています
Cレンガ工…私は大聖堂を作っています。歴史に残る大聖堂になるはずです(数値以外の目標…根本理念やコンセプトを理解し目標としている)

さて、ここで生産性が一番高かったのはどのレンガ工だったでしょうか?という問題です。これはCのレンガ工が一番生産性が上がっていたと容易に想像できます。何故かというとAのレンガ工ではただレンガを積むという数値が目標となってしまう事になると思いますが、Cのレンガ工は大聖堂を作るという目標を達成する為にレンガを積む事になる為、仕上がり等も含め生産性が上がりやすい傾向にあるということです。Aの様に数値目標はもちろん大事ですが、それプラス数値目標以外を説明し行動させる事がリーダーの役割として重要だという事です。
この件について次に卑近な話からご説明させて頂きます。

(5)『アミューズメント産業の基本理念』について

福神商事㈱は不動産事業とアミューズメント事業で成り立っていますが、その内の特にアミューズメント事業について、きっと参考になると思われるお話をさせて頂きます。
当社の経営理念にも数値目標以外の目標を掲げてはおりますが、数値目標以外の目標についてお話をさせて頂く上で、20年位前になると思いますがこの『アミューズメント産業の基本理念』という事について、私にご教示下さった方がいらっしゃいました。現在のバンダイナムコの創業者にあたる中村雅哉さん(故人)という方がその人です。当時、私がナムコを表敬訪問させて頂いた際に中村社長から「ホモルーデンスという言葉を知っていますか?」と聞かれた事を今でも鮮明に覚えております。私はその時率直に言って知りませんでしたので「ホモルーデンスとは何ですか?」とお尋ねしました。ホモルーデンスとは直訳すると「遊ぶ人・遊戯人」となりますが、決して所謂「遊び人」という事ではありません。この「ホモルーデンス」とはオランダの歴史・文明評論家のホイジンガー(ライデン大学・文化史学教授)が提唱した人間観の一つです。どのような人間観なのかといいますと、人間には精神的ゆとりをベースとした「精神的遊び心」が大切であるという考え方であると説明を受けました。
人類が様々な文化を発展させた根幹には全て人間の遊び心の中から生まれてきたという事がホイジンガーさんの提唱の一つだそうです。つまり遊び心こそが人間活動の本質であるということです。ですから企業が「遊び」を対象とする事業を営んでいる事を不謹慎である、けしからんという事は決してありません。むしろこのホモルーデンスという観点から見たらアミューズメント産業というのは一番人間に貢献している産業であるという事を中村社長は当時熱く語っておりました。遊びというのは、主に知能を有する動物、特に知能が発達した動物が生活的・生存上の実利の有無を問わず心を満足させることを主たる目的として行うものである。人間が進化し、向上する為には一番大事なのは遊び心なのです。勉強する事もちろん大事ですが、勉強する中に遊び心がないといけないのです。
これは企業も同じです。収益を上げよう、目標を達成しようとする際に、ただ出勤し今日はあれをやれ、早くやれとだけ指示していたのでは生産性はなかなか上がりにくいと言わざるを得ません。その中にどうやって遊び心を入れられるか、具体的な答えはありませんが、感覚的・精神的な遊び心を持っているかどうかが企業の在り方や生産性に繋がってきます。
ホイジンガーについて別の著者が解説している書籍内で紹介されていたのですが、ホイジンガーの考え方とタレントのタモリさんの遊びに対する考え方の類似性を指摘していました。タモリさんがゴルフを楽しんでいる際に、ご同行の方がふざけていたそうでその方に対してタモリさんが「真剣にやれよ。仕事じゃねーんだぞ」とおっしゃったそうです。まさに「遊びだからこそ真剣にやる」という事です。企業でも役職が上になればなるほど仕事と遊びの境界線を作らない。皆さん方の立場になったら「これは遊びだから」「これは仕事だから」とあまり明確なラインを設けない方が良いのではないかと思います。例えば仕事中におしゃべりをしている。これは不謹慎かというとそうではありません。仕事中に周りの人と対話をする、コミュニケーションをとるという事は大切な事です。1日をおしゃべりで終えるのはさすがに困りものですが、適度な息抜きや遊び心は、心のゆとりというものに繋がってくるのです。
この“遊び”の三大効用として挙げられるのは①充足感、②ストレスの解消、③安らぎの効用、このような効果があると言われており、結果的には生産性に繋がってくる事になります。
話が少し変わりますが、9月12日の日本経済新聞の夕刊2面に掲載されている連載「私のリーダー論」に三谷幸喜さんの記事が掲載されました。
この記事の中で三谷さんは「リーダーは人を楽しませて物事を進めるべきである」と強調しておりました。
また同記事内で三谷幸喜さんは日大芸術学部の出身との事で紹介をされていますが、同校出身者として爆笑問題の太田光さんがいらっしゃいます。この太田光さんが三谷幸喜さんを「あんなに人を笑わせて、あんなに人を引っ張っていける人はいない。」と評していたそうです。逆に三谷幸喜さんは太田光さんを「あんなに芸術に対して鋭い視点を持っている人はいない」と評していたそうで、芸術論においてとても鋭くすぐれた視点を持っていたとのことです。その後の経緯は存じ上げておりませんが、太田光さんは漫才の世界に入られた訳ですが、芸術にしろお笑いにしろ哲学を持ち取り組んでいる方が優れている事に変わりはなく、売れている方というのはどのような分野であれコンセプト「何の為にこれを行っているのか」という事を突き詰めて考えている方と、ただ結果だけを求めている方とではやはり地力が違ってくるのではないかと思います。目標の中に数値目標以外の目標、“コンセプト”を持つことが大切という事をこの記事を通して言いたかったのではないかと思い、この三谷幸喜さんや太田光さんのエピソードにも言える事ですが、ホイジンガーのホモルーデンスに提唱されている“遊び心”という観点が日本の芸能界等においてもとても大きく影響しているのではないかとこの記事を拝読した際にとても感銘を受けました。
話を戻しますが、遊びが遊びたる前提条件としましては、

①自由意志に基づく
②結果がどうなるかが未確定
③生産性を追わない
④ルールが存在する

というような内容がホイジンガー自身が定義する条件として挙げているそうです。
アミューズメント産業の基本理念についての総括としまして、「エンタテインメント産業とは人間の根源的な心に充足を与える貴重な産業である」ということです。我々福神グループとしてはこの視点をみなさんが持っているべき視点ではないかと思い、今日このホモルーデンスという人間観と併せてお伝えさせていただきました。特にアミューズメントに関わっている方はとりわけパチンコ産業に関わっている事で何らかの引け目というようなものを感じている方もいらっしゃるかもしれませんが、それは誤った認識だと敢えてお伝えしたいと思います。エンタテインメント産業というものは人間の根源的な心を充足させられる貴重な産業であると誇りをもって従事して頂きたいと思います。

以上を踏まえ、リーダー論に戻りますが、リーダーとは達意力、説得力がある人が良いということはもちろんですが、周りの人を動かすことができる人、つまり動機付け(やる気の促進)ができる人が良い訳です。そしてこの動機付けとは2つのパターンがあります。1つ目は不満要因の削除、2つ目は満足要因の促進です。どちらも動機付けとしては大切です。例えば1つ目の対応例としましては不満の原因となる従業員を異動させること等が挙げられます。この対応により不満は取り除かれることになります。2つ目の対応例としましては適切な評価により給与を上げて充足感を与える等が挙げられます。この対応により承認欲求や経済的な満足感を与えられた従業員のやる気が向上される効果が期待できます。どちらの動機付けも大切な対応ではありますが、不満に思う要因を取り除くよりも満足要因を促進する方がやる気を促進させるようです。
その他にもリーダーに求められるものとして、問題解決能力がある人である事を挙げたいと思います。これを如何に身に着けるかについては明確な答えはありません。ただし、一つの要素として問題解決能力において知識や経験というものは密接な関わりがある事は間違いありません。色々な知識や経験を積むことで問題解決能力を育むことができるという事は言えるのではないでしょうか。
またアメリカで滞在中において英語では“働く”という単語が色々あることを知りました。

①LABOR…指示命令で動く(肉体労働)
②WORK…指示命令で動く(デスクワーク)
③OPERATE…実行力・経営する
④MANAGE…経営する→動議付けをする→大目標(コンセプト)の設定

みなさん方も“働く”という言葉にも色々な意味があるという事をこの機会に考えてみてもよいのではないでしょうか。

本日はリーダー論の話とその中でも特に数値以外の目標やその動機付けの重要性、またホモルーデンスについてご紹介させて頂きました。

私の3か月間のアメリカ滞在中に堪能とは言えない語学力でも有意義に過ごすことができ、その後の人生においても大きな転機となったといえる経験を得られたと思っております。次回につきましては、来年は東京オリンピックも開催され海外の方との交流も増えることが見込まれることもありますので、私がアメリカ滞在中、通訳をしてくれる人が周りにいない状況で、どうやって英語圏での生活を営み周囲とコミュニケーションをとり、有意義に過ごせるだけの英語でのコミュニケーション能力を体得したかについて実体験といますか失敗談が多いお話になってしまいますが、それらをお伝えし皆さんにお役立て頂けたらと思っております。