第81回 職務記述書について

平成31年2月19日

■前回の復習

今日は前回の続きでアメリカの賃金制度ならびに働き方の特徴について話をしたいと思います。何度もお話ししている様にアメリカでは職務給制になる訳ですが、何時から職務給になるのかというと、入社時からという事になります。
アメリカにおいては、企業に入社するというより職務別の採用であり、人事がやりたいから人事部に入るとか、会計がやりたいから経理部に入るという様に職務が決まったうえで入社する事になります。採用側も人事スタッフが足りないから人事スタッフ要員を採用するといった感じです。
ところで、大企業に限って比較するとアメリカだけにあって日本にないコースに管理職コースがあります。誰もが管理職になりたい訳ですから、管理職コースがあれば誰だって普通は管理職コースを選ぶはずです。しかし実際には管理職コースに入る為には厳しい条件があり、誰でも入れる訳ではありません。少なくとも大学卒でなければなりませんし、基本的にはビジネススクールでMBA の資格を取る事が条件になります。
ビジネススクールは大学を卒業した者が大学院の試験を受けて、合格した人を2 年間教育します。教育方法はケースメソッドといって、自己学習とゼミ形式で今までの事例を題材に進めていきます。2 年間の教育が終わると最後にMBA の試験があり、受かった人がMBA の資格を取ることが出来ます。一般的には管理職コースはこのMBA を取った人が入るコースです。
大学院には他にロースクールがあります。日本語では法科大学院という事になりますが、法律の専門家を作る為のスクールです。これも2 年間勉強して司法試験を受ける事になります。MBA 同様、司法試験に受からなければまったく意味がありません。
司法試験に受かって、何年か経つと弁護士や検事になることが出来ます。
前回までこのような話をしてきました。それというのも私はこの千年企業研究会をビジネススクールの様なものにしたいからです。何年か経って会計や労働法の知識が増えたところで、討論とはいかないまでもビジネススクールのようにしたい訳です。
将来、日本でもアメリカの様にコース別で人材を取る事になるのではないかと思います。現在は社員の採用にあたり、企業がコースを決めていますが、皆様にはアメリカ的な考え方も取り入れて頂き、より有益な採用を考えて頂きたいと思います。
尚、蛇足ながら一言付言しておくと、管理職コースの人のみが出世するわけではありません。仮に高卒がクラークから入っても優秀で実績を積めば当然出世します。
MBA 入社の人を抜き去ってトップを極める事も十分あり得るのがアメリカ実業界であります。まさにビジネス界のアメリカンドリームは大いにあり得ます。それがアメリカの実力主義です。

■職務記述書について

職務記述書というのはマニュアルの事です。アメリカにおいては、マニュアルが本当によく整備されています。ケンタッキーやスターバックス等、日本に進出してきたアメリカ型の企業は、マニュアル通りに従業員が動きます。話す内容もマニュアルに書いてある為、同じになります。
日本でもマニュアルを重要視するようになってきましたが、まだまだアメリカ程厳しくありません。アメリカでは言われた通りにやらないと、監視官が点数をつけて、評価が低くなります。その監視官もマニュアル通りに動いているのですが・・。
では何故アメリカでは、社員がマニュアル通りに動くのかというと誤解を恐れずに言うと知的レベルの低い人が少なくないからです。と言うのもアメリカは移民等が非常に多く、教育レベルの差が著しいのです。我々日本人は単一民族で、義務教育により余程
の事が無い限り、中学までは卒業する事が出来ます。中学を卒業する事が出来れば、社会人として困る事は殆どありません。日本は世界でも有数の学歴の高い国であり、まず日本語を話せない人はいません。
他の国では自国の言葉が書けなかったり、読めない人がいます。アメリカでも英語を喋れない人が少なくありません。今にして思えば、45 年前の研修の時にも酷い英語を話す人がいました。兎も角、何故マニュアルなのかというと、知的レベルの差が大きく、
サービスの品質を均一にする為にはマニュアルが不可欠だからです。日本は最近ではマニュアル社会になりつつありますが、マニュアルを超えるように仕事をする事が求められます。当然、日本ではマニュアルを飛び越えて仕事をした人を評価することになります。一方、アメリカではマニュアル通りに仕事をしないと怒られます。ここら辺が文化の差になります。

■アメリカと日本の意思決定方法について

アメリカはトップから最下限まで勿論、階級社会です。日本とアメリカではトップの意思決定の仕方に多少違いがあります。トップダウンかボトムアップかという事ですが、私の直感ではアメリカは70%位がトップダウンで、残りはボトムアップです。一方、日本においては、大企業と中小企業で違うでしょうが、アメリカと逆で70%位がボトムアップで残りがトップダウンということになるのではないかと思います。
最近の例をお話しすると、カルロスゴーンは言うまでもなく、トップダウン型の経営者です。ある時、日産ではカルロスゴーンが下請け業者に30%の値引きを要求したそうです。カットしないと物を買わないと言ったそうです。利益率が10%位しかないの
にです。私の知り合いで部品業者の方はゴーンさんの最近のニュースを見て、ああなって当然だという話をしていました。ただ、結果として日産は業績を上げた事もあり、ゴーンさんが正しいという人もいますので、一概にどちらが悪いとは言えません。当然な
がら最終的には司法の判断です。
話が逸れましたが、カルロスゴーンは典型的なトップダウン型の経営者でこのような経営者は欧米に多いのです。
日本ではボトムアップの企業が多いと思います。トヨタ自動車は中間管理職が非常に優秀で様々な提案を上司に上げるそうです。良い提案は上司から部長に上がり、役員に上がって常務会に上げる事になります。日本では全てがボトムアップという訳ではありませんが、ボトムアップの企業が多い事は間違いないと思います。

■アメリカの賃金の上げ方について

アメリカにおいては、基本的に実力、能力主義であり、一旦会社に入ると実力があり、成果を出さないとなかなか出世出来ません。
評価されない場合、何を考えるのかというと転職です。アメリカでは実力主義であるが故に転職を選びます。一方、日本の場合はかなり崩れてきてはいますが、終身雇用、年功序列、春闘という事になります。アメリカにも春闘と同じようなものはありますが、
余り重きを置きません。アメリカでは自分で賃金を上げようと思ったら、やはり転職という事になります。
日本においては、「一旦入ったら、最後まで働く。」という考え方が根付いています。尤も現在の日本の大学生は入社後3年間の離職率は30%を超えるそうです。では日本において、実力が関係ないのかというと、そうではなくダイナミックではないものの評価によって、差が出る事になります。賞与や手当にも能力によって幅があり、最終的には人によって大きく差が出ます。同期入社だからといっても同じではありません。役員になっているか、課長になっているか、平のままかでは当然、年収に大きく差が出ます。当然の事ですが、日本も年功序列で実力主義が全くないという事ではありません。
しかしアメリカでは実力があるといきなり上がります。しかし、残りの人達は上がりません。残りの人が上がる為には転職する必要があります。例えで経理の話をすると、ある人が最初簿記が5級で入社後2級になり会計学や決算業務、法人税を出来るような
ったとします。アメリカ式だと転職する際に今の会社でどのような事が出来るようになったのかを転職先は評価します。その為、転職して賃金が上がる事になります。努力をしていない人は転職しても賃金は上がりません。努力をしていない人は採用側も取ることはありません。
日本では年功序列や春闘があり、それなりに賃金が上がっていきますが、アメリカだと賃金を上げる為には転職が一般的です。結果として、アメリカは非常に流動的でそういうニーズがあります。日本は非常に閉鎖的で大学を卒業した時点で、ある程度進路が
決まってしまいます。

本日はレジュメの(3)まで進みました。次回は(4)永年勤続褒賞制度から進めたいと思います。