第98回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和3年4月23日

■4つ目の経営者団体「日本生産性本部」について

労働法関係の話から労働者側の上部団体として総評や同盟があり、経営者側の上部団体として経団連や経済同友会、日本商工会議所と3つの経営者団体についてお話をしてきました。この経営者団体の続きとして、今回は4つ目の経営者団体である「日本生産性本部」についてお話したいと思います。

「日本生産性本部」とは何時頃設立され、どのような役割を担っていた組織かという事をまず触れたいと思います。そもそも経団連等と異なり、日本生産性本部という名称はあまり馴染みがない方が多く、知る人ぞ知る団体という様な印象かと思います。あまりその名前を聞かないのは、一つの役割を終えたと考えられていたからなのですが、最近この日本生産性本部の役割について見直されてきています。では何故見直されてきたかといった経緯や背景について、お話をしたいと思います。日本経済における生産性能力は世界から取り残されている状況です。以前は世界的にみても上位にあった生産性、高度経済成長期においてはアメリカに次いで世界第2位の約500兆円でGDP大国となったこともありましたが、約30年前の当時と比べてもそれほど上がっておらず、翻って、例えば中国等は以前は日本より下位だったものの、現在は約1,400兆円で日本の倍以上の2位となっており、日本は引き離されている状態です。この事からも日本生産性本部の役割が終わった等と言わず、もっと活躍して頂かなければ困る組織なのです。

それでは日本生産性本部は何時頃設立されたかといいますと、昭和30年、西暦1955年で戦後10年位が経過し、日本が高度経済成長期を迎えた頃です。設立したのは経団連及び同盟系、つまり民間企業の労働組合の上部団体がタイアップして生産性を上げる活動をする為に設立されました。この目的は経団連側からしてみると願ったり叶ったりでした。同盟の考え方も「賃金を上げる」というのが大きな役割ではありましたが、「賃金を上げる」という目的の為にただ経営者に賃金交渉をするのではなく「生産性を向上し利益を出しその利益の一部を賃金として配分する」という考え方をもとに組合自らが経団連とタイアップし生産性向上運動に取り組んだのです。そういう時代だったのです。戦後の時代を経て、「もはや戦後ではない」と言われた昭和30年頃~昭和50年頃において、これから日本経済をどんどん成長させなければいけないという事で日本生産性本部が設立された訳です。この時の経営者団体と労働組合が手を組みこの様な団体を設立したという事は世界的にみても大変珍しい事でした。まず前提として経営者団体と労働組合の関係はイデオロギー闘争、つまり自由主義が良いか、共産主義が良いかという考え方のもとに組合があったり、経営者団体があったりしたので、お互いに相容れない存在でした。現在に置き換えると共産主義の中国の国家体制と自由主義のアメリカの国家体制の相克のようなものです。近年は自由主義的な思想が主流となっておりましたが、コロナ禍においては共産主義国の国家元首の権力を行使した感染を封じ込める対応・対策が速やかに実行、違反者には厳罰をもって対応していた点と対照的に、自由主義・民主主義国では協議等が必要であり、対策の決定・実行までに多少の時間が必要である点や国民の権利や人権により完全封鎖等が困難で結果的に感染を抑えることが難しかった点などが挙げられます。

今回お話しているのは、共産主義と自由主義のどちらが良いとか悪いという話ではありません。今でこそその対決姿勢が薄れていますが、当時の対立していた経営者団体と労働組合とでは本質的に相容れないイデオロギーにも拘らず、タイアップ出来たという事が大変珍しい出来事であったという事をご理解頂きたいのです。

現状、日本生産性本部の活動について、皆さんがその団体の事かと思い浮かべられる例としては、毎年新入社員が入社する頃にその年の新入社員は〇〇型新入社員、「パンダ型新入社員」や「ドローン型新入社員」などと分析し公表している団体と言えば思い浮かぶ方もいらっしゃるかと思います。だいたい昭和30年から50年の20年間において日本生産性本部の活動における3つの柱があります。

1.年功序列の賃金体系
2.終身雇用制度
3.企業内組合

この3つは日本生産性本部が掲げたスローガンでした。この3つのスローガンはもう何年か前に古いとされ、成果主義等、これに代わるものが経済発展に必要とされて現在に至ります。この変遷と共に日本生産性本部の必要性が低下していってしまい、その役割を終えたと思われていたのです。

因みにこの日本生産性本部の活動が顕著であった昭和30年から50年の間にあった出来事としては、昭和39年には東京オリンピック、昭和48年にはオイルショックがありました。特に東京オリンピックからの10年間は急激に日本の経済が発展した高度経済成長期でした。その後も発展はしましたがオイルショックが契機となり日本の企業が大打撃を受けました。直近のリーマンショックの打撃より当時のオイルショックの打撃は凄まじかった様に思います。私自身は昭和42年に社会人になりましたので、今思えば約8年間は自分も高度経済成長期を経験していたのだなと振り返る事が出来ます。過去に栄養ドリンクのCMのコピーで「24時間戦えますか」というのが流行したのですが、現在はこのような事はもちろん許されませんが、当時はまさにそういう世相でした。私が一番印象的なのは昭和49年頃に赤坂支店という新規店舗に配属され、約3ヵ月間近隣の老舗ホテルに部屋を用意され、職務に就いていました。休みも殆ど家に帰ることなく、仕事をする環境でした。また、新規開拓を効率的に行う為にタクシーを使い、訪問件数を上げていくという事もありました。他にも様々なお客様との遣り取りなどは本当に凄かったと振り返って思うことがあります。当時、融資課の課長でしたが、オイルショック以後、私の職位も次長になり、部長になりと昇進する事になりましたが、待遇という意味ではこの頃を頂点としてその後は超える事はありませんでした。例えば、年収でもこの時と比べると、それ以降は職位が上がっても税金等の関係があったにせよ、殆ど手取りが変わらなかったのです。また、組合に関する業務等は通常の業務が終わった後に行なっており、文字通り夜中まで働いている時代でした。私だけではなく国民全員がこのような状態で働いていました。

そうした勢いで国民が働いていましたので、日本はGDPにおいてアメリカに次いで2位、生産性も3位前後だったと記憶していますが、そのような状態になりました。では最近の日本の生産性ランキングがどういう状況になっているかというと、数年前のデータですが、順位と指数を上げていきますと、1位はアイルランド(164)、2位はルクセンブルク(142)、3位アメリカ(127)、4位ノルウェー(122)、…8位フランス(108)、…11位イタリア(100)、…21位日本(82)となっております。指数で見て頂くと日本は上位の国に比べ生産性の指数が半分程度、アメリカと比べて約7割弱程度となってます。この生産性をもとに上位の国の給与が50万円相当が妥当だとしたら、日本はその半分程度つまり25万円分給与で我慢しなければならないということです。では、どうすれば生産性を上げることが出来るのかという事です。過去の話は過去として、すなわち、今後どういう取り組みが為されねばならないかについて今日は簡単に触れて、次回以降また触れていきたいと思います。生産性向上の為に今、日本が何を為すべきかという話をこれからしていきたいと思います。生産性向上について、日本生産性本部や直近の安倍内閣から出てきた方策のうち代表的なものが大きく分けると5つあります。まず第一のキーワードは「DX」つまりDigital Transformationです。最近は本当に頻繁にDXというのが出てきます。訳すとデジタルはそのままの意味で、Transformationは変革・変質という意味の単語ですが、この場合は形式転換や体質転換という意味で使われています。直訳するとデジタル革命、もう少し踏み込みますと、企業経営においてDigitalを背景にした体質の変換をする事と捉える事が出来ます。そのDXの話題の中でも良く出るキーワードを上げていきたいと思います。

①スマホ…効率化の為に活用 ※機能のうち2割程度の活用にとどまっている
②パソコン…ワードやエクセル等もその機能を十全に活用できているとは言えない
③リモート勤務
④ZOOMの活用
⑤ロボット
⑥AI(人工知能)
⑦IoT
⑧クラウド
⑨5G
⑩デジタル通貨(給与を各自のスマホへ デジタル通貨で支給 等)

これを次回以降に1つ1つお話したいと思っています。第一に挙げたDXはこういう事についてですが、先程大きく5つあるといいましたが、2つ目は組織のあり方、3つ目は採用のあり方、4つ目は人事評価の在り方、5つ目はその他、意識改革です。

DXのキーワードの内の①スマホですが、スマホは殆どの方がお持ちになっているものの、スマホにしろパソコンにしろその機能を十分に活用出来ていないのが現状です。スマホにおいては一般の人においては約2割程度しか活用出来ていないと言われています。パソコンに関してもそれほど大きく乖離はないかと思います。昔は電算部というものがあり、スマホの機能よりも1/100程度の能力のコンピューターがどの位の大きさだったかと言いますと、この部屋が一つ必要な程で、今のスマホとは比べ物にならない位、場所をとるものでした。そんな昔とは違い、今はスマホの様にコンパクトで多機能な物があるのですから、もっと事務処理などに活用する事で効率化が図れる筈なのです。事業において、効率化の為の活用例として挙げたい事例として水産会社の取り組みなどが紹介されていたのでお話したいと思います。どのようなことかというとある水産会社で漁(りょう)を終え水揚げされた魚の種類と数を数えて紙に記入し、事務所でパソコンに入力し集計というようなことをしていたそうです。スマホを活用して船が港に着いたら水揚げされた魚の種類と数をその場でスマホに入力し処理することで事務所に紙を持ち帰り、事務所で紙から入力という作業を省き、現場での水揚げからすぐに売り上げ計算が可能となったそうです(当然システム開発は必要)。100機能があるのであれば100の機能が使えるようにする取り組みをしたいというのが現在の取り組みとなります。パソコンも同様で様々な機能があり、よく使うものとしてはWordやExcel、PowerPointなどもあります。WordにしてもExcelにしても便利に使われているかと思いますが、こちらも100ある内の20~30程度の活用で止まっているとされ、これをより活用する事でより効率化が図れると考えられています。活用する為にはどうすればいいか勉強する事でまだまだ効率化を図れる余地があるという事です。

今、日本が世界で競争力を取り戻す為にも単純作業は人がやらずにロボットが行う等、色々とやるべきことがあり、生産性向上の為にも日本生産性本部の果たすべき役割が大きくなってきているという事について、次回以降も引き続きお話していきたいと思います。

そういうことで次回以降は引き続き他のキーワードについて説明していきたいと思います。その中でも成功事例として特に観光地の飲食店での取り組みなども紹介し進めて行きたいと思います。