第115回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和4年12月29日

■経営者の力量とは

本当に早いもので、本日が年内最後の千年企業研究会になります。1ヶ月に1回、この様な場を設けて、お話をさせて頂いておりますが、皆さんも貴重な時間を遣り繰りして頂いて、こうして出席頂いている訳ですから、私も何かしらお役に立つ様な話をと思い、毎回一生懸命勤めているつもりです。この場でのお話は何か試験をする為の勉強という事ではないのですが、皆さんが何れ役員や社長になった時に「あの時にあんな事を聞いていたな。」と思い起こして頂ける様な内容にしたいと考えています。ですから、今日のこの講義の中で何か1つだけでも知識的な面だけじゃなく、「あ、なるほど」とか、「こういう事が大事なんだな」という様に皆さんの心に届く事が出来ましたら、私としては本望です。

さて、前回迄のお話を振り返りますと、アート引越センターの寺田氏が非常に苦労されたという日本経済新聞に連載されていた記事を基に、経営上の問題等を取り上げてお話してきました。このところは株主総会の話をしてきた訳ですが、その中で実際に株主は経営者、経営陣に対してどういう事を求めているのかというお話をしてきております。アート引越センターの上場の話から株主総会という流れで話をしてきた訳です。

そして実際にどういう事を求めているかという事については、「2つの側面があります。」という事を前回お話しております。その1つは抽象的な話になりましたが、精神的な面と言いますか、経営力がなければならないという事、それから、もう1つは人間力が大事だというお話だった訳です。そして、今回は具体的な面について、何を求めているかについてのお話をしたいと思います。

株主の求めるものとは、精神的なものを求めているのも事実ですが、今回お話する具体的な面というのは率直に言って、ある意味では株主の本音だと思います。この具体的な面については3点程、お話をしたいと思っております。

経営者や経営陣に対して株主が求めているもの、これは先ず、第1点は当たり前の話なのですが「利益を出す事」です。株主にしてみれば、その企業が儲かってくれてなきゃ困る訳です。ですから、先ず“利益を出す”これが求められる、ごく当たり前の事ではあります。会社経営をする人は、初めから損益を出そうとか、そんな気持ちで経営しているはずはなく、利益を出す為に一生懸命取り組んでいる訳です。という事で“利益を出す”つまり赤字にしないという事が一番重要です。

更に言えば“利益を出す”という事について言及しますと“適正利益”というものがあります。その利益を出すにしても、最低限どれだけの利益を出さなければいけないかという事に少し触れたいと思います。“最低限の利益”とは言いますが、そもそも“利益”というものにも色々あります。その中でも特に大事なのが“営業利益”です。その企業の本来的な商売をして利益を出すという事です。それがその企業の本来的な商売をして、赤字を出してしまい、それを補填する為に例えば物件を売却するとか、株を売却するとかそういった類いの事で利益を出す。経常利益や当期利益、物件売却や株の売却、そういうものも当然加えて、会社は利益を出す訳です。この物件を売却して利益を出すにしても売却出来る物件をそもそも資産として所有しているからこそ売却し利益を出す事が出来る訳ですが、当期利益は赤字にしないという事は、経常利益や当期利益、売却等、様々な段階の利益があるにせよ、その個々の利益に注目するのではなく、やはりこの営業利益において利益を出しているかどうかに注目をするべきなのです。本来、会社は商売をしてその商売で利益が出ていなければならないのです。そして多くの場合、会社は借入をする訳ですが、借入をすれば、金利を払わなければならない訳です。つまり営業利益から借り入れた分の金利が払えない程度の営業利益ではダメだという事です。例えば1年間で金利が2億円だったとすると、年間でこれだけの金利を払える程度が最低限求められる営業利益です。この金利を下回る営業利益だった場合、つまり営業利益から金利を差し引いた残りが0以下は実質赤字とみるべきで、最悪の状態であるという事です。更に言えば配当金も出せる様になる事が求められる訳ですから、営業利益から金利を支払い、配当金も出せるようにする事が重要なのです。

ではこの最低ライン以下の状態の企業の事を世の中では何と言われているかと言うと“ゾンビ企業”と言われているのです。“ゾンビ企業”かどうかについては「借入金の利息を本業の利益で賄えているか」をその判断基準としているそうです。つまりお伝えしたいのは“ゾンビ企業”と言われる様な状況が続くようではではダメという事です。借入金の金利は最低限払えるような状況でなければいけないということをお伝えしたいのです。

ゾンビ企業の定義(国際決済銀行基準)
3年以上にわたってICR(インタレスト・カバレッジ・レシオ)
1未満、かつ設立10年以上

表1

たまたまですが、帝国データバンクの『日刊 帝国ニュース』12月15日版のTOPICSとして特集があったのでその話をしたいと思います。

2021年度決算をベースに算出したゾンビ企業の数が掲載されていたのですが、この帝国データバンクの企業財務データベース『COSMOS1』約93万社から抽出した“ゾンビ企業”率が12.9%だったそうです。これを同社の企業概要データベース『COSMOS2』に収録されている約147万社に当てはめて推定すると“ゾンビ企業”の数は18.8万社になるのです。これだけの数が“ゾンビ企業”と言われているという事です。

ゾンビ企業だからといって、直ぐ倒産するとかそういう訳ではありませんが、利益を出している企業に比べればその姿が近づいているとも言える状態です。ですから“ゾンビ企業”なんて事にならない様に、我が社で言えば先ずは今期2億円以上、儲かって貰える様にしたら良いのではないでしょうか。または金利の水準を下げる、極端な話でいえば借入金を0にすれば金利の支払いは生じない訳ですが、借入金を0にする訳にもいかないのでこの水準をできる限り下げる、これも大事な事です。

何れにしても、このバランスが重要で、この利益で借入金利が払えないという事になると、それはゾンビ企業と言われてしまうという事です。ですので当初の話に戻りますが、株主の立場で企業を見た場合“ゾンビ企業”なんて嫌な訳ですから、そうならない様に利益を出して欲しいという事を求めてくる訳です。

そして次に、株主が要求するものは、皆さんもご推察の通り配当です。

株主はなんだかんだ言っても、企業には利益を出して貰い、自分に還元して欲しい訳で、それが配当という事になります。

この配当について触れたいと思いますが、どれぐらい配当すれば良いのかというと、これも適正配当があります。この配当について、歴史的に日本の企業を振り返ってみたいと思います。

大体、戦後高度成長になる前までの時期といいますか、高度成長期も含めて日本の企業は、配当額を株券の額面の何割という言い方で取扱いをしていたのです。例えば、どういう事かというと、1株50円で発行した株だったら配当は1株当たり5円。要するに1割配当という事です。これで立派に配当していると見做されてた時代がありました。ところが、今は1割配当程度では立派だなんて言われません。当時、どうしてそうなっていたかというと、配当するという事は、商売をして得た利益が社外に出る、言葉を選ばず言えば会社側から見た場合、配当するという事はお金を“社外流出”させると見る事も出来るという事です。そして当時は、自己資本の充実という事が非常に重要な観点だった時期でもあったのです。

今回は会計学を勉強している訳ではありませんので、詳細は省きますが、自己資本の充実、要するに自己資本比率が低いと皆さんご存じかと思いますが、企業は“安定してない”と言われてしまいます。

高ければ高いほど安定しているという事です。当時、戦後の日本企業はどこも自己資本比率が低かったのです。今であれば、例えばトヨタ自動車の様な企業は無借金会社ですから、自己資本比率はとても高いのではないかと思います。ですが、当時は本当に自己資本比率が低く10%もなかった、そんな時代です。だからこそ早く自己資本を充実させようという事で、当時の日本の企業は配当を抑えたのです。配当を抑えても株主にとっても自己資本比率を上げて企業の経営状況を安定させた方が良いという事で自己資本の充実を図ってきていた訳です。そういう背景があった訳ですが、何故それが変わったのかというと外資、特にアメリカの影響によるものです。

アメリカの株主は、当時からアメリカの企業の場合は自己資本比率が日本と異なり、もう既に高い状態の企業が多かったのです。ですから「利益は株主へ還元しなさい」と株主は言うのです。要するに高配当を求める様になった訳です。こうして高配当を求める様になる事で、戦後の日本の様な“額面の何割”というような配当の計算は行わなくなりました。今は日本の企業の株売買でもそうなっていますが、株を買った人は利回りを求めている訳です。以前は例えば1,000円の額面の1割を配当していたので100円が配当されていましたが、今は利益が出ているなら、例えば20%の利回りを要求してくるという様になる、つまり2割配当となる訳ですから200円配当する事になります。以前であれば、100円の配当で済んだものが、今は200円の配当を要求される様になった訳です。昔の風潮だったら配当は100円だったかもしれません。

株主が求めているものは、企業が安定しているかしてないか、収益上げているか上げてないか。そうしてあげた収益から配当を2割ないし3割、これはもう最低限というレベルで、若しくはそれ以上の事をアメリカでは企業に対して要求している訳で、当然日本の企業に対してもそういう事を求める様になっていった訳です。つまり株主は配当を受け取る事が一番の望みだという事です。ですから配当も出せない様な企業経営をしているのであれば、経営者交代を要求するという事もある訳です。

話は変わりますが、私が前に勤めていた企業で経験したとても象徴的な事例について触れたいと思います。

その会社でも当然、株主総会があった訳ですが、その会社の資産において1番を占めているのが現金資産でした。当時で大体3000億円から4000億円位の現金を持っていました。経常利益で700億円あり「凄いな。」と思ったものでした。そして、この会社の株主総会で何を要求されたかというと“現金資産の運用”についてです。この会社は現金資産の運用については投資等もしていましたが、その殆どを銀行預金にしている状況でした。銀行預金の金利についても当時はおそらく1%もなく0.5~0.1%位の時代だったかと思います。株主にしてみれば、それほど多くの現金資産を低い金利で銀行預金として寝かせておくのであれば投資などで利益を上げて配当として還元して欲しい訳です。外資系の企業等から見た場合、とても儲かっている企業だからこの会社の株を購入しようとなる訳で、外資比率が30%を超えている状態で株主総会を開催する事になった訳です。その株主総会からは現金をただ保持しているだけだなんてとんでもない、保持している現金を元に商売、つまり投資してそこからも利益を出す事を要求された訳です。ただ、この会社が手元に現金を残そうとする様になった事にも理由があります。この会社には戦後間もない頃、とても苦しい時期があり、銀行から借入をしたくても断られてしまって借入が出来なかったという時代を経験していた為、何とか会社を安定させたい、世界的にどのような経済状況になったとしても安定した企業運営をする為にも現金を手許に持っていたいと考える様になった背景があります。ある意味経営者がとても堅実な方だからこそ、現金を手許に残す様になったといえます。つまり儲かった分を元手に投資をしても必ずしも利益が出る訳ではなく、損する場合もありますし、株主へ配当をするより前にまず会社の安定に注力したい、何かあったときには手許に現金があるのが一番だ、というある意味とても日本的な経営方針だった訳です。その結果、その会社は利益をどんどん現金として積み増していき、結果外資の目に留まり「この現金で何か商売をし、更に利益を出す事」と「株主への高配当」をこの会社は要求される事になった訳です。この事例からも判る様に、“資本の充実”、“自己資本の充実”を目的に会社が現金や不動産等でたくさんの資産を保有していたい、という様な事に対して、株主はたくさんの資産を保有するよりもそれを元手に儲かる事をして配当として還元して欲しいという事を要求してくる訳です。

では株主総会が株主からの要求な等で紛糾したかというと、そういう事もなく、案外スムーズに進行し、閉会していました。出席者に外資系ファンドや株主が出席していない訳ではありません。ですが、私が株主総会に携わっていた際に一番苦労したのはこの外資対策でした。この対策というのが実際にこの様な表現を使う事はありませんが“影の株主総会”とも言える“IR活動”です。IRとは何かというと株主や投資家に向けて企業の経営方針や財政状況、顧客や地域社会に対する活動の成果等、投資判断に必要な情報を提供する事です。その様な情報提供をする場を設け、ご案内するという事を今は特に大企業の場合は何処の企業でもやっているような情勢です。以前お話ししました通り、株主総会はとても重要なもので法的に招集が義務付けられておりますが、このIR活動については法律で何か取り決めがあるという事はありません。IRとはInvestor Relationsの略で、Investorとは投資家、Relationsは関係や間柄という意味で、投資家に向け企業が情報発信をし、コミュニケーションを図る活動や会合等の事を指します。このIR活動を何時行うか等を株主や投資家に向けてご案内すると、その当日に皆さんお越しになる訳です。そういった場で株主や投資家に向けて、こういう決算結果になる見込みで配当がどうなる見込みか、それを受けて今後の会社の方針についてどう考えているか等を事前に説明していく訳です。この場では確定的な事はお伝え出来ないのでこういう方針であるという事を説明していくのです。それに対して、参加している株主や投資家から質問や意見等が出てくるのですが、この質問や意見というのは会社の為を思って出して下さるものです。投資家の中でも特に大きなファンドのスタッフはその業界について研究しており、その業界で働く人よりもその業界についてとても詳しい専門家ということがあります。その専門家がその企業について財務内容などを分析し、この企業はこういう事をやるべきなのではないか、こういう事をした方がいいのではないかと分析した結果としての意見を出してくれる訳です。ですから、その意見というものは企業にとってとても参考になる事が多いのです。

今回も冒頭から株主総会の話をしてきましたが、この様に実際は株主総会当日ではなく、事前のIR活動においてある意味勝負は決まっているとも言えます。ただ、先程も触れました通り、IR活動は定時株主総会とは異なり、別に法律でそれを行わなければならないというような事が決まっている訳ではありません。ですが、特にアメリカ等ではこのIR活動が活発に行われてきた事で、それが日本企業でも今浸透してきているという事です。

少し話が逸れましたが、株主が具体的に何を要求するかという事について、1つ目は“利益を出す”、2つ目は“適正配当”とお話してきまして、3つ目について触れたいところではありますが、この3つ目は次回で触れたいと思います。次回の予告にもなりますが、この3つ目は以前の話と重複してしまうかもしれませんが“健全経営”です。言葉を選ばずに言えば、経営陣も従業員も含め、その会社自体が悪い事はしてはいけないという事です。次回はこの健全経営を実現する為にはどうしたらよいかという事について触れたいと思います。そして次回、時間に余裕があれば上場のメリットとデメリットという話をしてアート引越センターの連載から始まったお話を締めくくりたいと思います。その後は以前ご案内していた通り、倒産会社の特徴について触れ、その次にはいよいよ長丁場になりますが法人税の話に入っていきたいと思います。

今年は今回が締め括りとなりますが、来年も良いお年を皆様夫々にお迎えして頂ければと思います。本当に1年間、ご清聴ありがとうございました。
以 上