第103回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和3年10月22日

■アート引越センターの寺田千代乃名誉会長から学ぶ

これまで、この会でお話してきた事を振り返ってみますと、①会社法から始まり、②会計学、そして③労働法に至る迄お話をさせて頂きました。経営者として知っておくべき大きな4つの項目のうち3つが終わった状態です。これからは④法人税・所得税という税金関係について、経営者として知っておかなければいけないという事でお話していきたいと思っております。ただ、その法人税に入る前に閑話休題として、予てからご案内しておりました通り、アート引越センターの寺田千代乃氏の話をしたいと思います。昨年、日本経済新聞の連載「私の履歴書」に掲載されていて、その内容が大変興味深く、私なりに寺田氏から学ぶべきところがあると考えているからです。因みにアート引越センターの話が終わりましたら、その次は倒産企業のキーワードについて、お話したいと思っております。その後は著名な経済学者や経営学者の方が色々な事を論じているのですが、そちらにも触れていきたいと思います。皆さん方も経営者として勉強していく中で参考になる事がきっとあると思います。

それでは今日のテーマのアート引越センターについてですが、寺田千代乃氏が日本経済新聞の「私の履歴書」に連載した記事をもとにお話をしていきたいと思いますが、先ずはアート引越センターの概要に触れたいと思います。

1.アート引越センターの概要

(1)設立          昭和52年(西暦1977年)
(2)CAP(資本金)     1億円
(3)年商          1,200億円(連載掲載時点)
     取締役社長(代表)   寺田政登氏(千代乃氏の長男)
(4)従業員数        3,500人


(5)千代乃氏の役職(経歴)
     アートコーポレーション   創業者、初代社長、現在は名誉会長
     関西経済同友会       代表幹事
     関西経済連合会       副会長
     政府税制調査会委員・政府戦略会議メンバー

設立が昭和52年、資本金が1億、年商が1,200億円、従業員が3500名ということからも判る様に立派な大企業です。設立から44年が経つ訳ですが、逆に言いますと44年間でここまで大きな企業に成長させたという事でもある訳です。因みに素朴な疑問として、売上高の規模等から比べると資本金が少ない様に見受けられます。資本金の額として1億円というのは決して少なくはないのですが、以前はもっと大きな額でした。では何故1億円なのかという事ですが、今後アートコーポレーションについてお話していく中でも非常に重要なポイントになるのですが、かつて、アートコーポレーションは上場しておりました。ですが上場してみた結果、上場のメリットよりも社内の活力低下等のデメリットの方をより強く感じる様になり、上場の意義が判らなくなったという事で上場は自社の社風に馴染まないと判断し、創業精神に戻す為に非上場化へ逆戻りする決断をする事になります。その時にMBO(マネジメント・バイアウト)という手法で市場に出回った自社株を取得し、アートコーポレーションは上場を廃止し、その際に資本金を1億円まで縮小したのです。この様な経緯で現在は企業の規模に対して少なく見える1億円という資本金になっているのです。続けて年商について1,200億円と資料に記載しましたが、現在はこういうご時世ですので年商に多少の変動があるかもしれません。現在の社長は政登氏でこの方は千代乃氏のご子息です。創業したのは大阪で本社がありますが、現在は東京オフィスもあり大阪と東京の2か所で管理する所謂W本社体制のような状態です。

千代乃氏のこれまで歴任してきた役職を紹介しますと、アート引越センターの初代社長を務め、現在はアートコーポレーションの名誉会長に就かれていますが、それ以外にも関西経済同友会の代表幹事、更には関西経済連合会の副会長も歴任されており大変素晴らしい経歴をお持ちの方です。また政府の諮問機関の委員等にも就かれ、政府から政治への意見を聴取される立場を務められてきた方でもあります。この様に様々な役目を歴任されてきたという事は大変素晴らしい事なのです。単に会社を大きく成長させたという事だけではなく、一種の名誉職という側面もありますが、経済団体の代表幹事や政府の諮問機関のメンバーになるには会社を大きく成長させたというだけでは任せられるようなものではなく、この方が人格的にも非常に優れていたからこそ任命されたとみるべきなのです。

さて創業者について触れていきますが、創業者の寺田千代乃氏は現在74歳、大阪育ちだそうです。公立中学卒業後は進学せず就職し、インテリア店で勤務していた17歳位の時にコシノヒロコ氏の店のカーテンを誂えた事があったそうで、後に関西経済同友会で再会した時にその事を伝えると、覚えていて驚いていたというエピソードも記されていました。中学時代は剣道部に所属し、男子と一緒に遊ぶ事も多くその繋がりで知り合ったのが後に夫となる寺田寿男氏だったそうです。因みに中学校の時の成績は進学組にも負けない位に良かった様です。

アート引越センターの話から少し逸れますが、会社経営といいますか、仕事をするという事に対して、我々は意外と「学歴がある=仕事が出来る、学歴がない=仕事が出来ない」という先入観を持ってしまっている部分があるかもしれません。ですが、私も50年以上仕事をしてきて、色々な人との関わりを持ってきました。所謂、高学歴の方とも一緒にお仕事してきましたし、高卒の方ともお仕事をしてきました。東京相和銀行や遊技機メーカー、そして福神商事と3社で経験してきて現在に至っていますが、今振り返って思う事は、仕事が出来る出来ない、出世するしないという事は学歴とは全く関係がないという事です。社長になる、経営者になるという事は実は学歴とは関係ないと私のこれまでの経験から実感しています。故人の話になりますが、東京相和銀行の会長について触れますと当時は“金融界のドン”と呼ばれている様な人で、私から見たら新入行員の時から社長で所謂、雲の上の人でした。私から見たらそんな人でしたが、会長は実は小学校卒だったのです。当時の私が勤めていた銀行には色々な銀行や大蔵省等の官公庁の局長クラスの経験がある様な高学歴の方々が天下ってくるのですが、流石にこの人には会長も敵わないだろうと思うこともあったものの、だいたい3ケ月も経過すると上下関係がはっきりと出ていて、結局は学歴で言えば小学校卒である会長を追い抜いた高学歴の人にお目に掛かる事はありませんでした。これに関連して私も個人的に調べてみたのですが、大企業の社長の中で最終学歴が中学校卒の方は45名いるそうです。(東京商工リサーチ「130万人の社長データ」調査より)業種的にはIT関連や情報通信関連の業界の社長に高学歴に当てはまらない人が多いように見受けられます。現在ではパソコンなどのIT機器を使って仕事をするという事が当たり前になってきていますが、そういう環境の恩恵を受けながら、そこから起業しようとする様な人とは私等から見ると、先入観もあり、例えば「理系の一流大学卒じゃないとIT関連の社長は出来ない」と思ってしまいがちですが意外とそうではないといいますか、大卒でも理系ではなく文系卒で興味を持ち自分で勉強して世の中の需要等を取り入れて様々なアイデアを活かして起業し会社を成長させている方もいる様です。先入観のイメージ通りの方ももちろんいらっしゃいますし、業種や業界の傾向にもよるかとは思いますが先に挙げた45名の大企業の社長の様な先入観にマッチしない学歴の方の様に「こういう事は、こういう人でなければ出来ないだろう・やらないだろう」と思い込みに合致しない方もいらっしゃいます。私の実体験といいますか、経験則から言わせて頂くと、仕事といいますか実務や企業経営というのは学歴とは関係なく、如何にその仕事に真剣に取り組むか、何か課題や問題に直面した時に意欲をもって解決する為に取り組めるかどうかという事なのです。今我々が勤めている福神商事の様に会社組織の中には事務や管理業務というものが当たり前の様にありますが、会社には最初から事務や管理の仕事がある訳ではなく、まずはセールスつまり売上があるという事から商売が始まっていくのです。営業を頑張って売上が上がる事でセールスを頑張る為にセールス以外の業務を処理する人を必要とする様になっていきます。そうして事務や管理部門が立ち上げられていく訳で、起業には先ず何より売る為に働きかける事が大事なのです。先に管理部門がある訳ではなく、最初は商売ありきで、管理部門は商売が成功する事で後々に必要性が出てきてからなのです。この話をするにあたって代表的な日本の経営者としては、パナソニック株式会社の松下幸之助氏とHONDA(本田技研工業株式会社)の本田宗一郎氏です。今とは教育制度が異なり、当時は尋常小学校が4年、高等小学校に進んでも6年の教育期間となったかと思いますが、この二人は小学校卒だったかと思います。松下幸之助氏が創業したパナソニックも、本田宗一郎氏が創業したHONDAも世界的な規模を誇る大企業です。如何に経営において学歴や勉強が出来る事がそれほど影響しないという事を表す象徴的な人物ではないかと思います。二人とも丁稚奉公から始まり働きながら学んでいったのです。

先程もお話しました“金融界のドン”と言われた小学校卒の会長についてのエピソードになりますが、この方がどの様な努力をしてきたかという事を私は傍にいて、よく見てきましたので知っている事を紹介したいと思います。努力といいますか、学ぶ事に対する貪欲さには本当に頭が下がる思いでした。仕事が忙しいので月曜日から土曜日の午前中まで身を粉にして働いていましたが、毎週土曜日には様々な分野で活躍されている偉い先生方が会長のもとに訪れていたので不思議に思い、ある日会長秘書に尋ねてみたところ、会長の家庭教師との事でした。会長は経済や金融など様々な分野について時間割を作って勉強していたのです。その中でも私が驚いたのは仕事に関わる事だけではなくピアノの指導も受けていましたし、書道も先生を呼んでいました。幅広く学び続ける方でしたので、会議の席で会長が話されることについて、私は当時この方は一体どこで学んだのだろうとドキッとさせられる事が度々あった事を覚えています。会長の勉強に対する姿勢は本当に凄いものがあり、その貪欲な姿勢をいまだに私は思い出す事があります。世界的な大企業のお二人と比べる訳ではありませんが、私が身近に接した中で松下幸之助氏や本田宗一郎氏に類似するような経歴を持つ人として当てはまるのがこの会長だと思っています。私の場合は身近にいたからこそ、尚更学歴ではないと実感している訳です。

話を戻しますが、大企業の社長の中で最終学歴が中学校卒の45名における共通点がインターネットで紹介されていたので挙げますと、

1.自分を信じて前に進み続ける
(決めた事は誰が何と言おうと続ける)
2.努力を怠らない
3.考える(知識)だけではなく即行動

3については、考える事や知識ももちろん大切ですが、何事も行動を起こさなければ何も生み出さないという事です。これらが45名の社長や松下幸之助氏や本田宗一郎氏も含めた共通点だという事です。

2の努力を怠らないについてですが、これは何かに突き当たった時にどの様に解決できるかを実は皆さん判っているのですが、それに対して“必要な事をやり続ける”努力を続けられない事が多いのです。今の自分にはこういう事が必要なのだという事を理解し、その為に自分でやるべき事を決め、その決めた事を続ける事が出来るという行動面に見られる特徴を持っているのがこの45名の社長達であり、松下氏や本田氏なのです。

仕事について、自分はこういう大学卒ではないからこういう仕事は出来ないんだなどと思ってはいけません。先程からお話してきている様に学歴は関係ないのです。学生のうちに学べる事(学歴)は一生という規模で見た場合、ほんの僅かな物です。生きていく中や仕事をしていく中で必要な知識といいますか、身の処し方を学び体得するのは仕事を持ってから、つまり社会に出てからなのです。机に向かい勉強しているだけでは身に付かないこと、仕事をしながら課題に突き当たりそれをどう乗り越えるか、乗り越えるためにこういう知識が必要なのだということを理解しそれを乗り越えるだけの知識を身に付ける為に行動を起こしそれを完遂する為に努力し続けられるか、どこかの段階で諦めて辞めてしまわないという姿勢が仕事をしていく上において最も大事だということです。寺田氏は、あまり良い言い回しではないかもしれませんが、中学校卒でそして女性では初めての関西経団連の副会長や関西同友会の代表幹事まで務めた方で、そんな方の含蓄のある経験談は我々にとっても大変勉強になりますので寺田氏のお話を通じて皆さんにお伝えしていきたいと思っています。

以 上