第125回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和5年12月20日

株式上場のメリット・デメリットについて(4)

前回まで株式上場のメリット、デメリットのメリットについてお話してきまして、今回はデメリットについてお話をしたいと思います。

上場のメリット、デメリットと言っておりますが、人に例えると長所と短所にあたると思います。長所というのは別の角度から見ると短所になり、翻って短所は別の角度から見たら長所になったりする訳で、それと全く同じ事が言えるという点を踏まえた上で今回のお話をしていきたいと思います。つまりデメリットとして私がこれから挙げる事も見方によっては寧ろメリットじゃないかという事になることもあるかという事です。

上場のデメリットの1 番目を挙げるならば、上場すると株主総会を開催しなければなりませんが、今回これについて私はお話したいと思っています。株式会社というものは誰のものかというと株主のものです。その株主が最終的に総会で会社の大方針を決定する、その決定する場が株主総会という事です。会社が間違いを起こさない様にする為には寧ろ株主総会はメリットと捉える事もできます。ところが私の経験からお話しますとデメリットとしてお伝えする事になります。以前も何度か取り上げた事がありますので想像がつく方もいらっしゃるかもしれませんが、株主総会を開催するという事は精神的な圧力と言いますか、筆舌に尽くしがたい心理的な負担があります。私が経験した株主総会は今の株主総会ではなく、ひと昔前の株主総会での経験を基にしたものになりますが、それはもう本当に大変なものでした。

少し話は逸れますが、上場会社は株主総会を開催するが、非上場会社は株主総会を開かなくていいのかと思う方もいるかもしれません。けれど、そんな事はありません。上場・非上場に関わりなく株式会社は会社法という法律に基づき株主総会を開催する義務があります。株主総会の開催について話題が挙がるのが上場会社ばかりで非上場会社の株主総会の話をあまり聞かない為、開催していないのではないかと思われがちですがその様な事はありません。非上場の会社も会社法に則り、株主総会を開催しており、その内容については文書が残っているかと思います。非上場の企業は創業者など限られた人が纏まった株数を保有している事が多く、その株主に対して招集通知を出し株主総会を開催していますし、会社は事前に総会の議題について説明資料等を準備し株主へ説明し承認を得ている訳です。

話を戻しまして、株主総会を開催するにあたり、委任状を出さず自身が出席するという株主に対して、会社はその株主の出席を拒否する事はできません。しかも好意的な質問をする株主ばかりではなく、分かりやすく言えば意地悪な質問をする株主もいる訳です。そういう事から私は総会を開く意味があるのだろうかと感じてしまう事もあったので、今回デメリットとして挙げている訳です。

また少し話が逸れますが、デメリットの話をするにあたり、観点を変えて“持株比率”についてお話したいと思います。株主は持株比率に応じて出来る事、出来ない事があります。株主平等の原則がありますので1 株でも持っていれば原則的には皆平等ではありますが、その持っている株式の比率に応じた上での平等だという点は誤解しないで頂ければと思います。ではその持株に応じて区分けしてどの様な権利が生じるのかという事をお話していきたいと思います。これは暗記するという様なものではなく、こういうものがあるのだなという事を覚えて頂ければ結構だと思います。

表1

ではまず、1つ目としては1株を持っている株主にはどの様な権利があるかといいますと、議決権、要するに株主総会に出席しその議題に賛成・反対する事が出来る議決権を行使出来るという事です。その他には配当を請求する権利ですが、これはいくら配当しなさいという請求が出来るという事ではなく、今回は株主への配当をしないとなった場合に配当をして欲しいと請求する権利という事ですが、例えば、今期は赤字だったので今回は配当出来ませんとなり、賛成多数で決議してしまった場合は当然配当されません。つまり配当して欲しいと求める事が出来る権利はあるという事です。

その他には私はこれが一番のデメリットと言えるのではないかと思いますが、株主代表訴訟提案権です。これは株主の代表が、例えば、その会社が何らかの不祥事があったとしてその件について裁判を起こす事を提案する権利があるのですが、これは1株でも出来るのです。

また他には自分が1 株持っているけれど、手放したいとなった時に誰も自分の持っている株式を購入しない場合にその会社に株式買取請求権を行使する事が出来ます。ですが、この権利を行使する人はめったにいません。株主総会の話からは逸れますが、上場会社の株式の場合は売却する事が出来ますが、株式取引を行うにあたり単元株というものがあります。これは株式を売買出来る単位で、以前は1000 株等がありましたが、今は100 株で統一されています。株式は1株でも持っていれば株主になれますが、現在は株式の売買単位が100 株に統一されていますので株式の購入は100 株単位で行う事になっています。単元株に関係なく話を進めると1株持っていれば株主になれますし、議決権を行使する事が可能になる等の権利を有する事になる訳です。

2つ目として1%以上の株式を持っている株主にはどの様な権利があるかというと、議題の提案権があります。ですが、提案したからと言ってその通りになるかというと過半数の承認を得なければならない訳ですから賛成か反対かどちらになるかはまた別の話になる訳です。

3つ目として3%以上の株式を持っている株主は総会招集権があります。これは年に1回の定時総会以外にも臨時での総会を開く事を請求する事が出来るのです。これは例えば、何らかの不祥事が起きた時にそれを議題にして臨時で決議したいとして、その為の株主総会の開催を要求出来る権利があります。

その他にも帳簿などを閲覧や謄写(コピー)を請求する事が出来る会計帳簿閲覧謄写請求権もあります。

また他には清算人の解任請求権もあります。これは会社を解散する時等に清算人を選ぶ事になりますが、その人ではダメだと解任を請求する権利があるという事です。これら3 点が3%以上の株式を持っている株主の権利として与えられます。

4つ目として1/3超の株式を持っている株主についてですが、株主総会の特別決議に関わる権利となります。特別決議とは例えば、会社の憲法ともいえる定款の変更、資本金の減資、事業譲渡や合併、会社分割、解散等、株主に大きな影響を及ぼす事項については特別決議が必要となります。分かりやすくする為に単純化して説明しますと、この特別決議には2/3以上の賛成が必要となる訳ですが、翻せば1/3超の株を保有していた場合その特別決議を拒否する事が出来るのです。

5つ目として1/2超の株を保有している場合、つまり半分を超える株式を持っている場合は普通決議の議案を承認する事も否認する事も出来る訳です。以前、大塚家具の例を挙げてプロキシーファイトについてお話しましたが、1 人の株主が1/2超を持つ必要はなく、他の株主も含め1/2超の賛同を得る事で議案を通す事が出来る様になる訳です。普通決議は取締役の選任・解任、決算の承認など多岐に亘ります。通常の議案は普通決議ですから、よく“経営権を握る”と言われる事がありますが、特別な事がなければ
特に影響はないかもしれませんが1/2超の株式を持っていると会社の方針等の決定をするにあたってはとても重要になってくるという事です。ですので1/2超の株を持っていうと“経営権を握る”と言える状態になるということになる訳です。

6つ目として、4つ目の1/3超の裏返しになりますが、2/3超の株式を持っていると特別決議を可決する事が出来るのです。1/3超を持っていると特別決議の拒否権、2/3超を持っていると特別決議を含むありとあらゆる決議にかかる可決権を持つ事になりますので、これはもう完全支配ともいえる状態になる訳です。

更にこの上には100%持っている場合ですが、これが完全支配権を持っていると言えますが、権利としては3/2超持っている状態も100%持っている状態も同じという訳です。

持株比率別に株主にはこの様な権利があるという事を踏まえて、つまりどの株主が何株(何%)持っていて夫々どの様な権利があるかという様な事を踏まえて株主総会を開かなければならない訳です。これは非常に大変な事なのです。

この様に持株比率による株主の権利を踏まえ、何故上場のデメリットとして株主総会の開催を挙げたのかというと、“株主総会対策”というものがあるからです。だいたいにおいては総務部が担当する事が多く見受けられましたが、何かというと以前の株主総会においては“総会屋対策”があったからです。総会屋は株主総会において重箱の隅をつつくような質問をする訳ですが、質問する事自体を否定するものではありませんが、あまりに細かい事について本議題と関係ない様な事まで質問される訳です。そういう事をして議事進行の妨げられない様、事前に総会屋に所謂「袖の下」を渡して円滑に議事進行出来る様“総会屋対策”として行っていた時代があったのです。ですが、以前もお話しましたが暴対法(暴力団対策法)が施行されてからはそういった事が明確に違法となり、全くなくなりました。この様に株主総会の運営というのはどれほどの心理的な負担があるのか、以前お話した千本ノックなんてものもある様に想定される質疑応答のリハーサル、配当請求権、経営陣の意見を株主へきちんと伝えられるよう準備するなど開催の為にどれだけの準備をしなければいけないか、株主総会開催の為に係る莫大な労力が最大のデメリットと言えるのではないかと私は思っています。

今回は上場の最大のデメリットとして心理的な負担や莫大な労力が掛かるという点を挙げました。次回はデメリットの2 つ目として上場すると如何にお金が掛かるかという上場コストについてお話したいと思います。その後は本社機能がどういう風に変化してしまうかという事について、それもまたデメリットであるという事についてもお話をしていき、アート引越センターの寺田氏の「私の履歴書」から始まった話題を終えたいと思います。

次々回以降は倒産の予兆について簡単にお話をしてから法人税についてお話をしていきたいと思っています。
以 上