第118回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和5年4月25日

■前回までの振り返り

 日経新聞の連載「私の履歴書」で紹介されたアート引越センターの寺田氏に関する記事をもとに株主総会や株主が望んでいるものは何かという話をしてきました。そして、突き詰めていくと、一番株主が恐れているのは「不祥事」だという事について、事例をもとに前回説明させて頂きました。その際にも触れましたが、「不祥事を何故恐れるか?」というと株が暴落、最終的には倒産の可能性が非常に高くなり、投資したお金が手元に戻って来なくなる危険性が高くなる為だという事をお話しました。

今はその不祥事について8社の事例をもとにケーススタディとして触れていく事にしておりますが、前回はそのうち2件の事例について触れました。

(1) リクルート社
(2) 大手ゼネコンによる談合事件
(3) ライブドア社
(4) 東芝の不正会計
(5) イトマン事件
(6) 山一證券
(7) 電通のパワハラ事件
(8) スルガ銀行不正融資事件
今回は引き続きケーススタディを行っていきたいと思います。

企業の健全性について(2)

 それでは前回挙げた8つの事例に沿って話をしていきたいと思います。
前回挙げた8つの事例から我々が気を付けなければいけない事として5つを挙げましたが、更に言えば経営陣となった時に特に気を付けるべき事として3つに分類し挙げたいと思います。

【8つの事例から学ぶべき、経営陣が時に特に気を付けるべき3つ】

1. 政治家・反社会的勢力との癒着  ←頼ってはいけない
(1)リクルート事件 (5)イトマン事件(住友銀行)
2. コンプライアンス  ←重要
(2)ゼネコン談合事件 (7)電通のパワハラ事件
3. 粉飾決算  ←禁止 ※一番起こりやすい不祥事
(3)ライブドア社 (4)東芝の不正会計 (6)山一證券 (8)スルガ銀行不正融資事件

この様に大きく3つに分類して、8社の事例を挙げておりますが、その内、4社は粉飾決算です。この事からも判る様に粉飾決算とは企業の状況が思わしくない時に、言葉は悪いですが“一番手っ取り早く何とかしよう”とした際に手を染めてしまう不祥事と言えます。
この様に3つに分類しましたが、とにかく癒着、コンプライアンス違反、法律やルールを順守するという精神や粉飾決算をやらない、これらの事が重要なのです。

【反社会的勢力との癒着】
(5)イトマン事件

 イトマン事件は、伊藤萬株式会社という繊維商社が総合商社へ方向転換をした事に端を発した事件で、所謂暴力団との繋がりがあった事件でもあります。総合商社への転換をするにあたり、当時伊藤萬株式会社は主力銀行であった住友銀行から同銀行の役員である河村良彦氏を社長として受け入れる事になりました。そして当時の住友銀行の会長が磯田一郎氏でした。河村氏は伊藤萬株式会社の社長就任後に住友銀行からの莫大な融資を受け不動産や絵画等の美術品等の売買で利益を上げようとする訳ですが、そのような時に資金繰りに苦しんでいた伊藤寿永光氏が河村氏と巡り合います。偶々伊藤氏との関わりによる不動産取引で利益を上げた事で河村氏と伊藤氏の間で関係が親密になり、伊藤氏は伊藤萬株式会社の常務にまでなりました。この伊藤氏は闇社会、今でいう反社会的勢力との繋がりもあり、その人脈から許永中氏とも繋がってしまったのです。この許永中氏は戦後の闇社会に非常に強い影響力を持った人物だったと認識頂ければよいと思います。こういった人脈や住友銀行と伊藤萬株式会社、つまり磯田氏と河村氏との関係性、磯田氏や河村氏のワンマン体質等の様々な要因が重なり、住友銀行から伊藤萬株式会社に対して、通常では有り得ない様な莫大な融資が行われ、その資金が暴力団等の闇社会へと流れていっていたのです。そして、この借入金が1兆2000億円という莫大な額になった事が明らかとなり、イトマン事件が発覚したのです。その後にも住友銀行名古屋支店長が射殺される等、大変な事件となりました。この事件の本質的な問題はワンマン化にあるといえます。以前にもお話しましたが、社員や部下の側から経営者に対して、それはいけない事だと止めさせようとする、つまり諫言するという事はとても困難な事です。経営者、この場合は河村氏や磯田氏がこれはやってはいけない事だ、止めなければいけない事だと気付き行動を起こさなければいけなかったのです。経営者というものは、功名心や“自分が、自分が”という精神でいてはいけないのです。以前からお話している“社員ファースト”、つまり社員を大切にする精神がとても大切で、働いている従業員の皆さんが幸せになれるようにという精神があればこういう事件にはならなかったのではないかと思います。

イトマン事件については政治家や暴力団と付き合うと如何に大変な事になるかという事を覚えておいて頂ければと思います。

【コンプライアンス】
(2)電通事件

 次に2つ目のコンプライアンスについてです。このコンプライアンスも重要で、遵守する精神を失ってはいけません。社長を始めとする経営者は部下がコンプライアンス違反をしようとしていたら、止めなければなりません。逆に経営者がコンプライアンス違反をしようとすると部下は絶対といっていいほど制止しきれないものなのです。ですので、経営者になった時に“自分は法律違反をしない”こういう気持ちを決して忘れてはいけないのです。

コンプライアンス違反については前回も触れたゼネコンによる談合事件つまり独占禁止法違反のケースがありましたが、それ以外にも挙げたいのが労働法に関連する違反です。その例として、電通事件について触れたいと思います。

事件の概要としては、その年の4月に入社したばかりの新入社員が同年末に自殺をしたのです。過労死ラインといわれる80時間を大幅に超える時間外労働による過労自殺だけではなく、上司によるパワーハラスメントやセクシャルハラスメントの被害を受けていた事を窺わせるSNSへの書き込み等があり、報道等で大きく取り上げられていました。過重労働やハラスメントについては、「昭和の時代はこうだった」、「今はやりにくくてしょうがない」等と言う人もいるかもしれませんが、以前はそうだったとしても今は令和の時代です。社員を大切にするという事は当然の事なのです。私が今でも覚えている印象的な言葉として、ある経営者が言った言葉があります。それは「社長になったら、私は労働組合の委員長になったつもりで経営するよ。」という言葉です。これはいい言葉だと私は思いました。経営者として大事な思想だと思います。労働組合の委員長というのは組合員の皆の幸せ、社員の幸せを背負って立つ存在です。経理や営業部門から社長に就任するケースは勿論ありますが、労働組合委員長を経験して社長に就任したケースが上場企業だけでなく、中小企業にも結構見られます。これは社長にとってこの人事・労務管理におけるコンプライアンス遵守の精神というのは非常に大事な事だという事でもあります。

今回はここまでとし、次回には3つ目に挙げた粉飾決算について、ライブドア社から入り、東芝の不正会計事件等、4つの事例について触れていきたいと思います。その話が終わりましたら、次に上場企業のメリットデメリットについてお話して、アート引越センターの寺田氏の私の履歴書についての話を終わりにしたいと思っています。その後は法人税に進む前に一度会計学上の倒産の原因について触れたいと思っています。

何度も言う様ですが、一番大事なのは、“自分はこれだけはしないぞ”という事をきちんと頭の中に入れておくという事です。この会を通じて皆さんにお伝えしたい事は、皆さんが経営者となった時に「福井さんがこういう事を言っていたな。」という事を記憶に留めておいて頂き、この会でお話している精神を持ち続けて頂きたいという事です。

以 上