第120回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和5年6月20日

前回までの振り返り

前回迄、日経新聞の連載「私の履歴書」で紹介されたアート引越センターの寺田氏に関する記事を基に株主総会に関する話題を中心に話を続けてきました。株主が最終的に一番嫌う事は “倒産”であり、その“倒産”に関しても様々な要因がある中で、最も嫌うのはコンプライアンス違反による業績悪化や倒産だという事をお話してきましたが、今回も引き続きそのお話をしていきたいと思います。

企業の健全性について(4)

前回迄のお話でも触れたかと思いますが、不祥事というものは経営者の私利により起こると言いますか、困難な状況に陥った時の対応を間違えなければ、金融機関や周りが何らかの援助の手を差し伸べてくれるという事もあったかもしれず、不祥事には至らなかったかもしれません。それでは、どうして不祥事が起きてしまったのか、実例を基にお話をしていきたいと思います。これから以前配布させて頂いたレジュメに記載してある(4)東芝(6)山一證券(8)スルガ銀行についてケーススタディを行い、残り3社の話が終わりましたら、上場のメリット・デメリットについてお話をしていきたいと思います。

【粉飾決算】

(4)東芝の会計不正

では、東芝の不祥事についてお話をしていきたいと思います。東芝は2006年に当時の西田社長が約6000億円という巨費を投じて原子力事業部門のウエスチングハウスを買収しました。買収前の東芝の業績としては2005年3月期決算では売上5兆8000億円、利益1,000億円と言われ、順当な経営状況にあったのではないかと思います。当時は主力であった半導体や白物家電だけではなく先々の事を見据えて原子力事業の買収を行ったのではないかと思われます。時期的な話をすると、この買収の後、2008年にはリーマンショックが起き、世界的な不況に陥り世界的に大変多くの企業がこの影響を受けました。東芝も当然この影響を受け主力であった半導体部門や白物家電だけではなく原子力事業についても不振となり2009年3月期には赤字転落となることになったのです。そしてこの時、経営陣が選択した手段が不祥事に繋がってしまうものだったのです。この時の西田氏をはじめとする経営陣は、自身の経営者としての力量が問われると思ったのか、ワンマンの力を発揮してしまい、あまり周囲の人に相談しなかったのでしょうか、東芝社内に「チャレンジ」制度を作ってしまったのです。この「チャレンジ」と呼ばれる仕組みの実態は、経営層から管理者層、管理者層から担当者へと上層から現場に対して「チャレンジ」という名の厳しい利益目標を科し、目標達成に対する強硬なプレッシャーをかけるものでした。とにかく各部門赤字は絶対に許さないという「必達目標」と部下に対して上司に逆らう事を許さないという性質があった事で各層、各担当者レベルで不適切な会計処理を行い、全社的な不正会計へと繋がっていったのです。粉飾した事で黒字となっていましたが、遡って調査をしたところ、2009年の実態は3,300億円の赤字だったとも言われています。東芝の不祥事において良くなかった点としては以下の4点です。

① ワンマン体質
② 恐慌・恐怖経営
③ 粉飾を部下にあからさまに・暗に強いる
(部下は命令を聞かざるを得ない)
④ 自己保身

東芝のこの全社的な不祥事から我々が学ぶべき事は、経営者に限らずどんなポストであっても上司が間違った事を言ったらそれを訂正する、不正や犯罪の指示に従わないという事が出来るかどうかという事です。

(6)山一證券

山一證券はかつて四大証券の一つとも言われた大手の証券会社でしたが1997年に自主廃業つまり倒産をした最大手の証券会社でした。では、何故この様な大手証券会社が廃業となったかというと“特金”と言われる営業特金を利用した不正が原因となったのです。営業特金は「にぎり」という隠語が使われていた手法です。当時の日本企業は自己資金を多く保有していました。ただ保有していても利益が出る訳ではありませんので、自己資金を投資し運用益を得ている企業が多くありました。企業によっては運用利益の方が多い企業すらもありました。この資産運用を証券会社に依頼している企業が多くあった訳ですが、健全な方法としては証券会社と資産運用を担当する部署間で都度遣り取りをしながら運用を行う形なのですが、都度確認をとりあうとなると大変です。そこで“特金”と呼ばれる証券会社が企業から資産運用を丸投げして貰い、利益を保証する手法が取られる様になり、これを通称「にぎり」と呼んでいました。丸投げする企業に対して証券会社が利益を保証つまり損失が出たら証券会社が補填するという事です。後に“特金”は問題となり禁止されるのですが、山一證券ではこの“特金”の獲得を最優先、つまり利益を最優先として営業を行っていました。ですがバブル崩壊の影響もあり山一證券はこの“特金”により1000億円を優に超える損失を負う事になりました。そして、この損失を補填する為に山一證券の経営陣は更に不正に手を染めてしまうのです。それが「とばし」と隠語で言われる“簿外債務”の処理を行う事で損失を先送りし、隠蔽することに手を染めてしまったのです。こういった「とばし」による損失の隠蔽を続け、何とか黒字を装っていたのですが、いつまでも隠し通せるものではありませんので結局は不正会計が発覚し大変な事件となった訳です。
山一證券の不正会計事件で良くなかった点としては以下の3点です。

① 利益至上主義
② コンプライアンス(業法)違反 「にぎり」
③ 粉飾決算(簿外処理)     「とばし」

山一證券の不正会計から我々が学ぶべき事は、遵法精神の重要性です。

この2社の例からもコンプライアンスの重要性を学んで頂けるかと思います。どちらの事例でも同じですが、上司としては利益を上げなさい、売り上げを達成しなさいという事を言う訳です。ですが、これを達成出来なければクビだという様に追い詰めたり、具体的な言葉ではなくても遠回しにそういう事を匂わせ、逃げ場をなくし、相手を追い詰めるという様な管理の仕方は所謂パワハラと言われるハラスメントであり、決して行ってはいけない事です。上司はただ部下にあれをしろこれをしろというだけではなく、管理者として部下の報告をよく聞き、アドバイスをし、目標を見直す等、色々と出来る事を行った上で責任を取る、そういう姿勢と言いますか、管理者としての自覚が重要なのです。その上で最終的に大事になってくるのがコンプライアンスだという事です。

今回は以上となります。次回も粉飾についてスルガ銀行不正融資事件のケーススタディをし、その後、上場のメリット・デメリットについてお話をする予定です。

以 上