第99回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和3年5月21日

■生産性向上策(提言)

これまで何回かに亘って、財界団体についてお話をさせて頂いておりますが、前回は日本生産性本部についてお話を致しました。この日本生産性本部はかつての日本の高度経済成長期を支えた精神的支柱でもあった訳ですが、現在ではその日本生産性本部が形骸化してしまいました。しかしながら、ここにきて日本が世界の中で生産性において遅れている事からも再度活躍が必要であると見直されてきており、生産性を向上する取り組みが日本生産性本部や前安倍内閣から引き続き現菅政権まで、直近ではデジタル庁の創設等にもある様に取り組みが進められており、その中でも生産性向上の為に5つの提言が為されています。

【生産性向上策(提言)】

(1)徹底的にDXを活用
(2)組織は出来る限りピラミッド型からフラット型を目指す
(3)採用はメンバーシップ型からジョブ型採用へ移行
(4)人事評価はプロセス重視から成果主義へ
(5)その他→特に意識改革

この提言に沿って1つ1つお話をしていきたいと思います。

(1)徹底的にDXを活用

前回も少し触れたのですが、早速DXの話から始めたいと思います。ただ注意して頂きたいのはこれをやったから明日から直ぐ生産性が上がるかというとそうではありません。即効性を期待するものではなく、中長期的な取り組みではあるのですが、日本が世界に比べ遅れている分野でもありますので、のんびり取り組んでいけば良いといった余裕のある状況にない事もご理解頂ければと思います。
デジタル庁の創設等にも見られますが、日本の生産性を加速する為にはそれを専門とする部署が必要との事で、新設するに至った事からも日本政府も本腰を入れてきたという事が判ると思います。

自分が新入行員の頃に資料を作成した際の事を思い起こしてみると、紙に先ず線を引いて、数字を記入して、それを算盤で検算を繰り返してという事をしていました。手作業でしたので、検算が何度やっても合わなかった事もありました。当時、資料作成に2時間や3時間も掛かっていましたが、現在同じ様な資料をエクセル等で作成すれば、ものの数分で完了する作業になってきているのです。50年程前と比べると格段に生産性が向上しているのです。50年前とは言わずデジタル化後進国と言われる日本にあっても10年前と比べても当時残業していた作業が残業せずに出来る様になっている等、生産性が向上している事が実感出来る方も多いと思います。

それではDX、つまり“コンピューターを活用した体質転換”をしようという事を進めている訳ですが、実際にどういう事かと言いますと、次の10項目が挙げられます。

①スマホ
②パソコン
③リモート勤務
④オンライン会議(ZOOM等)の活用
⑤ロボット
⑥AI(人工知能)
⑦IoT(Internet of Things)
⑧クラウド
⑨5G
⑩デジタル通貨

前回もお話をしたかと思いますが、スマホやパソコンの機能については約2割~3割程度の活用で止まっていると言われています。

少し話が逸れますが、最近の話題で65歳以上のワクチン接種の予約についてのエピソードを紹介したいと思います。予約方法として電話・LINE・ネット予約の3つがあったのですが、65歳以上の方が自分で予約しようとすると、LINEやネット予約は判らないので、電話予約をする事を選択し、実際に電話を掛け続けたものの、3時間経っても予約が出来ない状況だったそうです。その様子を知ったお孫さんが予約してくれるとの事で、お孫さんが「LINEで予約したらいいじゃない。」とスマホを使い、ものの数分の操作で予約が完了したそうです。これは電話を掛け続けた高齢者が悪いという話ではないのです。それこそ70歳や80歳の方がパソコンやスマホを新たに使おうと思っても無理と言わざるを得ないのです。私も同窓会等で私より少し年配の方に携帯の電話番号やメールアドレス等、連絡先の交換をお願いしようとしても、携帯電話を持っていない、そもそも固定電話しか持っていないし、使わないと言われる方がいる世代でもあるのです。この様にデジタルやコンピューターというものに対して高齢者には敷居が高く感じる人が多いのです。

ただ、皆さんはスマホやパソコン等知らないという方はいらっしゃらないと思いますので、今回は⑦⑧⑨⑩についてのお話をしていきたいと思います。皆さんもご存じの事かと思いますが、勉強会で認識を共有したいという事で取り上げたいと思います。

先ず、⑦IoTですがこれはInternet of Thingsの略なのですが、どういう事かといいますと“物にインターネットを繋げる”という事です。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、例えばドアにインターネットを繋げる事でドアを開閉した時にインターネットを通じてその情報を取得し、「ドアが開いていますよ」とアナウンスが出来る事であったり、工場の機械とインターネットを繋げる事で機械に不具合が起きた時にネットワークを通じて機械の不具合をその場にいない人等、離れた場所にも知らせる事が出来る、他にも植物とインターネットを結び付けて、植物への水遣りが不足している事をお知らせする等、あらゆるものとインターネットを繋げる事がIoTです。

次に⑧クラウドについてですが、直訳すると“雲”になりますが、コンピューター用語では、大きく言えばデータの保存方法の事だそうです。従来ではパソコン等で資料を作成したデータはそのパソコン内やUSBメモリ等に保存し、利用されていました。それがクラウド上に保存して利用する方向へ変化してきています。では「クラウドとは?」についてもう少し具体的に言いますと、インターネットを利用してデータやサービス等を必要な時に必要な分だけを利用できる考え方の事ですが、何故、クラウドと呼ばれるようになったかは判りませんが、皆さんもよく目にしていると思いますが、説明する時には大抵が雲のイラスト等で表現されています。今や世界中がインターネットで結びついていますが、その結びついている中からクラウドを通じて、そこに保存されているデータやサービス等を世界中何処にいても利用する事が出来るという事です。世界中何処でもと言われると、セキュリティ等も心配になってしまいますが、クラウドサービスを提供している各社がきちんと万全の対策している点も挙げたいと思います。私が見た資料で大手と言われている企業はMicrosoftやGoogle、Appleなどが挙げられていました。以前は自分のパソコン内だけで完結し自分が何らかの形で相手にデータ等を渡さなければ共有出来なかったものが、今はクラウドを利用する事でセキュリティーや権限等を管理した上で世界で共有出来る様になったという事です。

次に⑨5Gについてですが、第5世代の略で“G” は “Generation(世代)”の事で5Gとは“第5世代移動通信システム”という事です。単位といいますか、各世代は約10年単位で世代が上がってきています。1G、2G、3G、4Gときて現在は5Gですが6Gに向けて開発が進んでいる状況だと思います。私も以前3Gのスマホを使っていたのですが、どうしても速度が遅いので4G対応のスマホに交換したら、使い勝手が全く違いました。5Gは更に変わってくる訳です。それでは4Gと5Gではどれ位違うかという事ですが、大きく2点において異なるそうです。1つは通信速度です。例えると4Gは車移動、5Gは飛行機移動位の違いがあり、5Gはそれだけ通信速度が早いと言われています。2つ目の違いは3D映像(立体映像処理)鮮明度が圧倒的に異なる点やマルチアングル視聴が可能な点です。5Gによる恩恵とされているのが、例えば遠隔地からのオンライン診療や車の自動運転サポート等が挙げられます。今迄はまず近くに医療機関がない場合、そもそも検査や診断を受けられませんし、遠くに出向いて診断を受けたら治療が必要と判明してもその場での治療が困難で都市部の医療機関に移動しなければいけないということも起きていますが、5Gを活用し近隣の医療機関での検査結果のデータを都市部の医師へ送ることで、まるで開腹手術をしているかのような鮮明で具体的な3D画像やマルチアングルを使ったより高度な診療を患者が比較的近隣エリアで受ける事が出来る様になるのです。また車の自動運転は開発途中ですが、最終形は自分が乗るだけで自動的に目的地に移動する事が出来る様になる事で、5Gを利用する事で開発がより進むと言われています。これが実現しますと抜群の生産性の向上となります。

最後の⑩のデジタル通貨についですが、デジタル通貨払いでの給与等も言われていますが、そもそもデジタル通貨とはどんなものかと言いますと、大きく言えば電子マネーと仮想通貨の2つがあります。

まず、既に普及し使用されていますが、電子マネーには交通系(SuicaやPASMO等)、流通系(nanacoや楽天Edy、WAON等)、クレジットカード系(QUICPayやiDなど)があります。皆さんもこれらは良くお使いになられているかと思います。では仮想通貨についてですが、色々あるものの有名な物としてはビットコインがあります。そもそもの通貨、つまり日本の場合は日本銀行券(紙幣)がありますが、それと仮想通貨の違いとは何かというと、流通している紙幣に対して特定国家による保証がされているかどうかという点です。仮想通貨とはこういう特定国家の保証はありません。それでは安心して使えないではないかと思われるかと思いますが、暗号化等される事で通貨として認められていて、ブロックチェーンと言われる仕組みで記録の改ざんが難しい事で仮想通貨としての信用を担保しているのです。仮想通貨のメリットとしては送金する際のスピードや手数料がかからない点等があるようです。このようなデジタル通貨を使っての給与支払をすることが検討されていますが、それが可能なのか、可能であれば何がメリットになるかという点についてお話したいと思います。給与は殆どの場合、銀行口座を通して支払われています。ですがデジタル通貨払いをすることで銀行口座を使わずペイロールカード(給与支払台帳)に給与をデジタル通貨で支払うことが出来る様になるのです。ペイロールカードのイメージとしてはSuica等のカードをイメージして頂いてもいいかと思います。そうして支払われた給与がチャージされたペイロールカードを使い、買い物が出来るという事になります。これによって何が変わるかというと、銀行口座が必要ではなくなるという事です。銀行口座を利用する事で発生していた例えば従業員側の時間帯によっての引出す際の手数料や企業側の給与振込手数料等の手数料が削減出来る等のメリットが考えられます。

駆け足でここまで話してきましたが、こういうものを利用して生産性を向上して下さいとお願いしてもいますし、されてもいるのですが、ロボットやAI、IoTを活用する為に民間の各社による開発競争が盛んです。例えばZOOMですが、1年前には正直それほど認知もしておらず使った事もない人が多かったと思いますが、今となっては実際に活用しています。そしてこの仕組みを自社で開発した訳ではなく、開発されたサービスを導入し活用しているのです。この様に各サービス等を活用するという事自体は新型コロナ等とは関係なく続けていかなければならないのです。経営者として生産性を向上させるための様々なサービスを活用することが必要であり、その為には、1つはデジタルツールに関する知識を持つ事、2つ目はIT人材の採用を強化する事や意識的に育成する事が必要です。これからの企業人とは全ての人がIT人材でならなければならないのです。所謂デジタル・ネイティブ、つまり生まれた時からITが身近にあるスマホやPC、インターネット等が身近にある世代、ビル・ゲイツ曰く25歳以下だそうですが、DXについて期待しているのはそういう世代だという事だそうです。デジタル人材が今後を担うという事であり、企業人が皆、デジタル人材であると言われる位にならなければ生き残れないという事です。3つ目は語学です。これはデジタル化というものが何をもたらすかというと、地域を選ばず人と接することになりますので、国際人、デジタル人になる為には語学が必要であるという事です。これからの経営者に求められる事はこういう事なのです。皆さんが自らIT人材となる意識を持って今後効率化に臨んでいくと同時に、自分で全て行おうとする事だけではなく、例えば我が社でロボットを導入するにあたり、どの分野において、どの様に置き換える事でどれくらいコストが掛かり、どの様に効率化が図れるかという事も考え、取り組んでいかなければいけません。我が社の場合、例えばそれこそ5~10年経ったらホールで接客にロボットが導入されているかもしません。そういう事も十分考えられます。それこそロボットがお客様をお迎えし、しかもそのロボットがお客様を顔認証し「何々様、いらっしゃいませ。今日もお元気そうですね。」というように来店された方お一人ずつ個別に認識し、対応出来る様になる事で生身の人間が対応するよりロボットが対応する方がお客様は癒されるという日がくるかもしれません。

駆け足でお話してきましたが、今日のデジタルトランスフォーメーションについての話はここまでとして、次の回にはぜひ提言の2つめ組織のあり方についてお話をしていきたいと思います。

以 上