第101回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和3年8月6日

■「ワークマン」について

これまで労働法の話の流れから、「生産性を上げる為には」という事でDXや組織のあり方、ピラミッド型の組織からフラット型の組織へ、フラット型組織としてラルー氏の提唱しているティール組織についてお話をしてきました。次の法人税に進む前に、トピックスとして幾つか触れたいと思っていますが、今日は「ワークマン」という会社を紹介したいと思います。

前回、フラット型組織、ティール組織は未来型の組織として紹介してきましたが、これらの実現が未来の事と捉えている方もいらっしゃるかもしれません。私もお話していて、この様な組織や理念は本当に素晴らしいと感じているものの、その実現はまだ少し先の話ではないかと思っておりました。しかしながら、実は全くの別件で偶々目にした業界紙に「ワークマン」という会社の特徴的な点などが紹介されていたのですが、この記事を読んでいて、「この会社こそティール組織ではないか・・。」と思ったのです。もちろん、記事の内容は生産性やティール組織に関する記事では無かったのですが、ワークマンの経営者も同社がティール組織だという様な事もひと言も言っていません。紹介記事を読んでいて、ふと「ワークマンという会社はティール組織と似ているのではないか?」と思い至る部分がありました。既に日本の企業の中にも未来型と言われるティール組織と似ている企業があるのだと感銘を受けましたので、今回はワークマンについて紹介したいと思います。

雑誌や各種メディア等でかなり紹介されていますので、ご存知の方も多いかと思いますが、改めてワークマンの概要からお話をしたいと思います。

設立は1982年(昭和57年)、約40年近い業歴の企業です。本社は群馬県伊勢崎市。作業服のフランチャイズシステムにより、店舗を増やしている企業です。代表は小濱英之さんという方で、最初は数名で始めた企業だったそうです。それが今や資本金16億円、年商が約1千億。営業利益は年間で約200億円、利益率20%という素晴らしい企業に成長しています。因みに店舗数が2021年3月末時点で906店舗となっており、47都道府県全てに店舗があるそうです。

凄い成長率の企業なのですが、どの様にして成長してきたのかについて、触れたいと思います。代表者は取締役社長の小濱英之さんですが、その方が立ち上げたのが最近話題になっている関連会社が「ワークマン女子」でよくメディア等で取り上げられているので、皆さんもご存知かと思います。ワークマンがどの様な施策をとってきたかについてですが、

まず1つめが従業員・お取引先・フランチャイズ店に対して対応する原点が性善説なのだそうです。性善説は生まれながらにして人間は善良な存在であるという思想で、反対に性悪説は生まれながらにして人の本質は悪で法律などで律する事が必要だという思想ですが、ワークマンはその性善説をベースにして、従業員の多くは善良であるという事を念頭に会社を経営しているとのことです。

2つ目は1つ目から派生するのですが社員ファーストということを謳っている点です。また、この会社の業態の要でもあるフランチャイズ店ファーストで、経営の2大原点となっています。その前提のもと、責任者や管理者の方は直営店やフランチャイズ店にしても一切の管理をご法度としているそうです。自由度つまり裁量を持たせなさいという事ですが、ここが凄い会社だなと感心しました。経営の仕組みと仕事に関する考え方についてですが、決め事があるそうで、経営の仕組みの一つとして店舗の最低坪数、どういう棚にどのような商品を配置するか等の売り場の棚割りを標準化しているそうです。本社の経営戦略として、必要な最低坪数や棚割りの決め事を徹底しており、この点に関しては自由に決める事はご法度だそうです。次いで徹底的な現場主義、つまり直営店の店長やフランチャイズ店のオーナーの人達に大幅な裁量権を付与しているそうです。では何故現場主義で直営店の店長やフランチャイズ店のオーナーに大幅な裁量権を与えているかという事ですが、小売店というのは地域密着の商売であるという事が生命線で、地元の人の意見を最優先する事を経営の原点として据えているそうです。その為、この会社はただ地域密着で地域の人を大切にしていると口先で言うだけでなく、具体的に顧客組織の一環としてアンバサダー制度というのがあるそうです。アンバサダーということばは所謂“~大使”といわれる様なものですが、アンバサダー制度は地域の方にワークマンという会社の大使になって貰うのです。そして、このアンバサダーは上得意の地域の方になって頂けないかお声がけをして任命している様ですが、ただ任命するだけではなく、アンバサダー会議というものを定期的に実施するとのことです。フランチャイズ店というのは地元の方から暖簾を貸してほしいと手を挙げてやるようなシステムですが、フランチャイズ店に対してノウハウなどを提供する代わりにある一定の取り決めなどを遵守するというが一般的なフランチャイズの形式なのですが、ワークマンの場合は粗利の40%以上を確実に配分するという決まりになっているそうです。これはワークマンの業績に左右されず、自分のお店の業績によって必ず売上から原価を引いた粗利の40%が確実に配分されるので、ある意味そのお店の努力次第で稼げる訳ですからフランチャイズ店側からすると大変安心感があります。その他にも仕入のシステムには独特な物があるようで社外秘とされている様ですが、どうやら自動発注システムを完成させているらしく、先程お話しました管理をご法度とする方針を支える存在となっている様です。ではこのシステムをだれが完成させたかについてお話したいと思います。本社採用された従業員は、先ずは現場経験を積むそうですが、そんな社員のうち現場では十分に力を発揮できなかったと評価された従業員を中心に本社でチームを編成し、その人達が現場でどのような点で苦労したか等をピックアップしそれを改善するにはどうしたらいいか等を考えながらシステム開発に携わらせたそうです。その結果、営業店では高く評価されなかった従業員たちが完全自動発注システムというワークマンという会社を支える素晴らしいシステムを完成させたとのことです。この事から判るのは、人というのはある分野でダメだったからダメということではなく、どこかで活かせる場所があるという事をワークマンという会社は常に考えているという事です。それから、この会社の特徴として商売のシステム化ということも挙げたいと思います。各種の懸賞金制度というものが充実しているそうです。特徴的な例を上げますと、返品0達成賞というものがあるそうです。他にも対象商品の販売個数のコンクール等が随時開催されています。先程もお話しましたがワークマンには現場に自由度を与え、すなわち管理はしない、予算目標はない、ノルマもないとないないづくしですが、それはこれだけの普通の企業にないものがあるからこそ実現出来ているのだと思います。そういう仕組みの上で直営店でもフランチャイズ加盟店でも共に売り上げ目標というものはないという形が出来ているそうです。必然的に利益目標もないそうです。ただ、粗利に関してだけはフランチャイズ店には40%の分配が決め事としてあるだけです。40%を確実に分配される事が確約されていますから、当然フランチャイズ店のオーナーは利益を上げる為に売上や粗利を上げる為の努力をすることになります。鶏が先か卵が先かという事にはなりますが、結果的に売り上げ目標等は必要ないという結論に至ったようです。これは一つの特徴となる訳です。よくテレビなどでワークマンという会社は非常にユニークな会社だと耳にするのですが、その内容については目標もなければ予算もなく社員は自由だという点だけ随分独り歩きしている様に見受けられますが、それには先程お話しました色々なシステムや会社を支える仕組みや理念が整備されているからこそ、うまく機能しているのだと思います。これは結果主義、結果を出せなければ駄目だという事でもあるのですが、これを実現するには会社としての仕組みはきちんとしたものを整備しそれを励行させ、そしてマーケティング戦略をきちんと立て、それを日々実践させているのです。これらの取り組みはある意味プロセスでもあるのです。ワークマンの結果主義というのはこれらのプロセスをきちんと励行するということによって必然的に結果を出すことが出来るという仕組みがきちんと整備された上での結果主義という事だそうです。その他にもガツガツ働くことを禁止、長時間労働は決して褒めない、寧ろペナルティの対象となるそうで、それにはきちんとした理由があり無理をすると何事も長続きしないことや体を壊しては元も子もないという事で、長時間労働等はデメリットが多いので、その様な事をさせないようにしているそうです。

次に本部スタッフの考え方について触れたいと思います。本部スタッフには日々チームワークを重視しているそうです。これは個人プレーも必要かもしれませんが、チームで何かに取り組み完成させるという考え方が本部には浸透しているそうです。他との連携、部と部の連携、部そのものの中でもチームワークが必要ですし、全体でも連携を密にすることが必要であるという事です。一方、店長の役割としては価値を生む仕事に専念させているそうです。どちらも非常に抽象的な指示ではありますがワークマンが言わんとしていることは判るかと思います。

なお、ワークマンが目指すのは1年~2年の競争優位ではなく、100年単位での競争優位を勝ち取るという事がワークマンが目指すところだという事です。これは非常に含蓄のある言葉だと私は受け止めました。我が社も1000年企業を標榜しておりますが、100年の優位を築くという観点で仕事をしていくという事はとても重要な事だと私は思いました。これには、繰り返しになるかもしれませんが、本社の経営者が考える事は叱咤激励し、尻を叩いて戦略を実行させるのではなく、また、命令やノルマやプレッシャーではなく自主性と善意で従業員が働くシステム作りが経営者の仕事であるという事です。自主的に働かざるを得なくなる、善意で働かざるを得なくなるシステムを作るという事が経営者の仕事だという事です。

最後にワークマンの商売上の合言葉があるそうです。「信頼は無形の財産である」というもので、人様からの信頼を失うような行動や言動を慎みなさいという事です。今までお話してきました様にワークマンでは現場へ自由に様々な事が出来る様な裁量を与えていますが、反面一度信頼を失うということは無形の財産を失うことであるという思想を徹底的に教育しているのです。これは何も管理上の事だけの事ではなくお客様に対しての信頼を失うような事をしてしまったらお店のスタッフとして見做せないですよという事です。ワークマンとしてお客様に販売するのは作業服ではなく信頼であるという事なのです。長い事商売をしてきた人はなるほどと思われる方もいらっしゃると思います。ワークマンの店頭で販売をするのは有形の作業服等ではなく、自分の行動や言動を通してお客様に信頼を販売しているということです。

という事で今日紹介したようなワークマンの理念について見聞し、私なりにワークマンという会社はティール組織と似ているのではないかと思いましたので本日紹介させていただきました。今日のワークマンの話を通してだけではなく、これからも千年企業研究会で今後もこういう話をしていきたいと思っています。それは将来みなさん方が経営者になった時に、全てとは申しませんがこの1回1回の講義の中から何か1つでもこれは参考になる、これは取り入れたいと思うようなことをブレーンストーミング的に考えながら聞いていただければと思っております。また経営者になった時という事だけではなく、自分の今の仕事を遂行するにあたって例えば今日私がお話したワークマンの理念について自分の業務にも取り入れようと思うものがあるかという観点で聞いていただければと思っています。前回お話したティール組織の話についてもティール組織が言わんとしていることは何なのか、また、なぜ私がティール組織に関連してワークマンという会社の事例をお話したのか、各自で自分なりに参考になると思うことを書き留めていただければと思います。人間はすぐに忘れてしまいますので、私は自分の手帳に琴線に触れたものについて都度書き留めるようにしています。実は私の書き留めたものにも番号を振っていますが、今年1月に手帳を新しくしてから書き留めて今98項目あります。新聞でも雑誌でもこの1フレーズ良いなと思うものを書き留めて後から時間があるときに見返してこれ良いな、今度千年企業研究会で話してみよう、ちょっと調べてみよう等掘り返したりすることがありますし、逆に2~3カ月後の見返した時に何に感動したのだろうと思うこともあります。将来の自分や今の自分の役に立つように、それだけではなく自分が仕事をしていく上で大きなバックボーンとなるようなことはないか、そういう心構えを持ちながら人の話やニュースを聞く、書物や雑誌・新聞等を読むという様にして役立てて頂ければと思います。この千年企業研究会も月に1回ではありますが、その機会を活かし成長する人と何も考えない人とでは当然将来差が出てくるかと思います。ぜひ何かの参考にして戴きたい。
以 上