第100回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和3年6月24日

■生産性向上策(提言)

前回は生産性向上に向けた5つの提言の中からデジタル転換、DX(デジタルトランスフォーメーション)について、それはどういう事なのかというお話をさせて頂きました。これらの開発や導入は非常に大変な事であり、のんびり取り組む様なものではありませんが、ある程度時間が必要な事でもあるのではないかと思います。

さて、本日は2つ目の提言である組織について、お話していきたいと思います。生産性が上がると思われている組織の在り方について触れていく訳ですが、先ず我々が今どの様な組織に置かれているかというと皆さんもよくご存じのようにピラミッド型の組織となっています。これは一番上には一番偉い人がおり、中間層があり、一般社員がいるというピラミッド型になっています。

このピラミッド型というのはどのような特徴があるかと言いますと、
(Ⅰ)階級社会
(Ⅱ)中間管理職の肥大化………中間管理職が多くいる
(Ⅲ)集団管理型…………………集団を管理することに向いている

これらの特徴があると言われていて、最大の特徴は「トップダウン」だと言えます。つまり上位階級が下位階級に命令する事が一番の特徴と言えます。ですから管理の統制上は上手く機能しますので、従来型の組織はピラミッド型が多いかと思います。その他にも既存の組織の中で挙げますと自衛隊や官僚機構や、警察や消防、民間企業の中でも大企業等は統制が必要な場合は集団管理に適正があるピラミッド型が向いていると言われています。

それに対して、提言されているフラット型の組織とは、ピラミッド型も良いのですが、もっと平準化、つまりフラットな組織にした方が良いですよという事であり、フラット型の組織に転換したらどうでしょうと提言されている訳です。ではフラット型とはどのような特徴があるかと言いますと、

(Ⅰ)平等な社会
(Ⅱ)非階級化………………階級をあまり設けない
(Ⅲ)中間管理職の極小化
(Ⅳ)個の重視時代へ………個性を発揮できる
(Ⅴ)自主性の尊重
(意見・アイデア・提案の言い易い組織を目指す)
(個人の成果を重視する組織へ)

この様な組織へと移行する事で、ピラミッド型よりも生産性が上がるという事が言われています。

では何故最近フラット型の組織という事が話題に出ているかというと、ある方の組織論研究の結果が公表され、その結果が非常にセンセーショナルに報道されたからなのです。その方はフレデリック・ラルーといい、ラルー氏が出版した「ティール・組織論」が非常に高い評価を受けています。このラルー氏の組織研究の成果等を基に日本も生産性向上の為に組織を変革してみてはということです。今日はこのラルー氏のティール組織論についてお話していきたいと思います。

このフラット型というのは単に平面だということではなくて、例えばピラミッド型はトップが上に居て、命令を上から下に流すのですが、フラット型はトップが上下で言うならば下に居なければなりません。それはトップが支える役割を担うからだという事なのです。そうした形がラルー氏が言うティール型組織の様です。ティール組織にも夫々の課を置くことがありますが、その課の中でも上下関係を形成せず、トップダウンではなく仕事の役割を各自遂行していく体制にするということです。会社という大きなピラミッドの中に課というピラミッドがあり、上下関係があるのがピラミッド型ですが、それに対して、課と課の関係性や課の中においてもフラットな関係であるのがフラット型であるイメージを持って頂ければ良いと思います。フラット型における課長は課の偉い人・リーダーと捉えるのではなく、課を支える存在という事なのです。

ここまでフラット型で効率が上がるという話をしていますが、ラルー氏やティール組織論がどうして有名になってきたかについてお話していきたいと思います。

始めにラルー氏の経歴について簡単に触れると、ラルー氏は世界でトップクラスであるマッキンゼーというコンサルタント会社で15年間勤められ、主に組織論の分野を研究されている方です。約15年間で世界各地の約200社について研究しており、研究内容についても従業員の意識や、その会社の組織の在り方、成長率・利益率の高さ、経営者の意識、業種や歴史等、様々な要素を徹底的にあらゆる角度から比較・研究し、各企業がどの様な要因で成長したかという事や、低迷している要因について研究されたのですがその成果として、これから生産性を上げ成長を遂げ、持続可能な社会を創る為にはフラット型の組織が良いと結論付けた訳です。

ではフラット型というのはどういうコンセプトで取り組むべきかという事ですが、大きな結論から言いますと、1つ目は全ての意思決定権という権限を個々の社員に与えるという事です。2つ目は階層的な役職による組織マネジメント(いわゆるピラミッド型)で、尚且つ予算や売上(目標)等の従来の考え方を基にした考え方を完全に否定し、そういったものを作らないという事です。これからの組織のあり方というのは個々の社員が意思決定権を持つ事と、従来の予算を組んで達成する為に行動する、売上目標を達成する為にノルマがある、上役が檄を飛ばして成果を上げる等という、極端な例ですが長時間労働や過重労働を厭わず利益を確保するという旧態依然としたトップダウンの組織を否定するという、この2つのコンセプトをもとに提唱された新しい組織の在り方としてティール組織というものをラルー氏が提唱したのです。

では「ティール」とは何かという事ですが、辞書で調べると、「コガモ」という意味が主に出てきますが、今回は「進化」という意味で用いられ、「進化する組織」という事を表しているのではないかと思います。フレデリック・ラルー氏の著書の原題が「Reinventing Organizations」つまり「進化する組織」という事で、要はフラット型組織を提唱しているのです。因みにティール組織の特徴として3つの大きな特徴があります。

ティール組織の3つのキーワード
(1)Self Management(セルフ・マネジメント)……自主経営
(2)Wholeness(ホールネス)……個人のありのままの姿を尊重
(辞書ではwholenessは健全・全体性という意味)
(3)Evolutionary purpose(エボリューション・パーパス)……進化する目的
当初立てた目標は変容し目的・目標自体が進化していく組織

この3つのキーワードは組織全体もそうですし、個々の課もそうですが夫々目的をもって役割を果たす事で、当初その課や組織に与えられた目的を固定化させず常に目的を問い、進化や変化していく事で組織が成長するという概念を表しています。この様な組織が直ぐに出来るのかと疑問に思われると思います。ラルー氏はピラミッド型の組織をティール組織へと変化させるには5つの段階を経なければならないとしています。その5つの段階を夫々色で例えています。

従来型からティール型へ移行する為の5つのステップ
(1)レッド(赤)……圧倒的なリーダーを排除
特定の個人への依存を排除
(2)アンバー(琥珀)……個々人の自立
リーダーとなる特定の個人に依存しない体制
(3)オレンジ(橙)……平等組織の確立
ヒエラルキーはあるが厳格な階級でない
(4)グリーン(緑)……個々人の主体性確立
ヒエラルキーは残るものの個々人の主体性を尊重
(5)ティール(青緑)……圧倒的なリーダーが存在せず個々人が主体的に
意思決定する
理想型の完成

ティール組織のイメージとしては、組織を「一つの生命体」として捉えています。心臓や脳、神経や胃や手や足や血液等、体を構成する組織の様にお互いに結び付き自律的に機能するという人体は、例えば心臓や肝臓や胃が臓器同士の間に上下関係や批判等はなくそれぞれの役割を忠実に果たす事で人体の生命活動を維持しているのです。この臓器を組織(課)と捉え、とにかく各自がいかに自分の役割を果たすかに専念し、その関係性はフラットであるというイメージで提唱されているのがティール組織と捉えて頂ければと思います。ラルー氏も主張しているのですがピラミッド型から変えるにしても一足飛びに移行出来るものではなく、自分達にとって適切なのか、自分達の現状がどの段階に該当するのか、どの段階までは進められるか、ということはもちろん企業によってはどの段階までで止めるかということ等、色々なケースが考えられます。これは企業の業種や規模、歴史やその企業の人材育成状況、更に言えばその企業の文化により色々と考えていかなければいけません。ですが、そもそもティール組織を提唱するにあたり、様々な業種や規模の企業を200社近く研究してきた訳ですから、統計学的に言える事としてはピラミッド型よりもフラット型にして個人の自主性を尊重し、ボトムアップにより意見を吸いだした組織の方が最終的には勝てるという事を言っています。

本日は、生産性向上の為にピラミッド型からフラット型に移行とは言いますが、単に移行すれば生産性が上がると安易に考えずにどういうコンセプトを取り入れて組織を運営するかと考える事が大切です。移行するにあたってはティール組織という考え方があるという事を頭の隅に置いて頂いて、各自その部門を運営していく中で今日お話をしましたティール組織的な幾つかのコンセプトをピックアップし、自分の部や課へどの様に落とし込んでいく際の参考にして頂き、日頃の仕事に是非活かして頂ければと思います。

次回については、生産性向上策として提言されている3つ目の採用に関して触れたいと思います。また、ティール組織という言葉と結び付けられるかはわかりませんが、最近目にした記事で非常に脚光を浴びている企業として「ワークマン」があります。ワークマンは非常にユニークで、目標は設定しません。ノルマはありません。社員は自由です。という記事がありました。ということでワークマンの話もしたいと思っております。
以 上