第119回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和5年5月18日

■前回までの振り返り

 前回まで日経新聞の連載「私の履歴書」で紹介されたアート引越センターの寺田氏に関する記事を基に株主総会に関する話を中心に話をしてきましたた。株主が最終的に1番嫌う事は何かというと“倒産”だという事をお話したかと思います。倒産してしまうと株券の価値はなくなり、紙切れになってしまう為、“倒産”する事を1番嫌う訳です。その“倒産”に関しましても様々な要因がありますが、その中でも特に株主が1番嫌うのはコンプライアンス違反による業績悪化や倒産だという事を今回はお話していきたいと思います。

■企業の健全性について(3)

 それでは前回に引き続き企業の健全性について、事前にお配りしましたレジュメに沿ってケーススタディをしていきたいと思っております。今回は粉飾決算により非常に業績を悪化させた事例についてお話していく予定でおり、具体的にはライブドア社、東芝、山一證券、そしてスルガ銀行の4社の事例をあげて、4つの企業で共通している点についても触れていきたいと思っております。

ですがその前に、この4つの事件はそれなりに時間が経過している事例ですが、実はタイミングが良いことに帝国データバンクが発行している日刊帝国ニュースで令和5年5月8日号にコンプライアンス違反で倒産した企業についての記事が分析とともに掲載されておりました。こちらの記事が大変参考になるかと思いましたので、前段として先ずはこちらの記事についてお話をしていきたいと思います。

日刊帝国ニュースの記事の内容は、2022年つまり昨年1年間の倒産情報を集計し、様々な切り口で分析した結果、昨年1年間でコンプライアンス違反により倒産した企業が300社あり、これは過去15年間において最多の件数だったというものでした。

更に、その記事では昨年の企業の倒産件数が多い要因として大きく分けて3つの環境要因があると紹介されておりました。私も読んでいて「なるほど、そうか、そんなに多いのか。新型コロナウイルス感染症もあったし、そうなんだろうなと」と思う部分もあったのですが、“コンプライアンス違反で倒産した”という点について日刊帝国ニュースの分析を皆さんと共有する必要があると思いましたので、今回まずは日刊帝国ニュースの記事について紹介していきます。

記事の概要としては日本の経済の現状を基に日本企業の経営環境についての分析がされていました。そして昨年の倒産件数が増えた要因を分析し、継続して日本企業は厳しい経営環境に置かれているという現状についても触れられており、経営環境が厳しくなっている要因として次の3点を挙げていました。

第1の要因としては、皆さんも肌で感じていることかと思いますが、インフレ(物価高)です。このインフレがなぜ起きたかと言うと、ロシアによるウクライナ侵攻、つまり戦争によって引き起こされたという事です。ウクライナは世界的にみても農産物の産出が多く世界的な食料庫だった訳ですが、戦争により農産物の輸出量が減少してしまい、世界的に食料品の価格が高騰する事になってしまいました。そして、ロシアは世界有数のエネルギー産出国です。石油や天然ガス等のエネルギー等において、ロシアは世界で上位クラスの産出量を誇っていましたが、戦争による経済制裁等への報復措置として国外への輸出を停止した事によって世界的にエネルギー価格が高騰してしまったのです。この農産物とエネルギー価格の高騰によって世界的なインフレが引き起こされてしまっているのが現在の状況です。世界的に見た場合、各国は相当厳しい状況になっており、世界規模で見ると日本はまだ緩やかな傾向だと言われておりますが、それでも日々の生活において色々な物が値上がりしている事を皆さんも生活の中で実感しているものと思います。それに加えて、今の日本経済の状況は円安傾向となっています。円安は輸入品目の価格を引き上げます。ですから、当然円安もインフレの要因になります。こういう事が重なり、日本は現在インフレという状態にある訳です。

そして第2の要因は人手不足です。各種報道等でも取り上げられていますが、この人手不足については特にどの業種という事はなく、全体的に不足している傾向となっており、日本の採用市場は所謂“売り手市場”となっています。少し前にも報道で取り上げられていましたが、その対策として賃金を上げる企業も出てきていますが、裏を返せば賃金を上げないと人が採用出来ないという事です。日本経済の状況がこのようになっている事もあり、人材確保を目的として、先日報道で初任給や従業員の賃金大幅UPと話題になった様に賃上げに踏み切る企業が出てきている訳です。ですが、他方では業績が回復しておらず賃金を上げたくても上げられない企業もあるのです。とはいえ、どんなに業績が悪くなったとしてもこれ以上賃金を下げてしまうと本当に人が集まらなくなってしまう、そういう傾向になっていくのではないかと思います。

そして第3の要因は、コロナ融資返済開始とコロナの持続的影響です。ここ2〜3年とても大きな影響を与えた感染症もようやく収束に向かいつつあります。この感染症拡大の影響は甚大なものとなり、感染症を抑え込む為に人の動きを制限した事でお金も動かなくなり、多くの企業が非常に苦しい状況に追い込まれた訳です。政府も様々な対策を講じており、その一つがコロナ融資でした。どの企業もコロナ融資を受けた時には大変有難く喜ばれたものでしたが、融資してもらった以上、いつかは返済しなければなりません。そして、その返済がいよいよ始まる時期となった訳ですが、感染症が収束に向かっているとはいえ、人の動きつまり“客足”は新型コロナの影響がまだ残っており、まだ十分に回復している状態ではありません。世間的には感染症は収束に向かってはいるものの業績的にはまだ新型コロナの影響を受ける中で返済をしなければならない状況に陥り、企業は困り果てているのです。そういった事で帝国ニュースの記事にもあった昨年のコンプライアンス違反による倒産件数が過去最多という状況となってしまった訳です。

では何故コロナの影響がコンプライアンス違反に繋がるのかという事についても触れたいと思います。コロナの影響に関わらず、経営状況が苦しい各企業は経費削減や人員整理等、様々な対策を行います。ですが、それでも苦しい状況から脱却出来ず、それでも何とか存続さようとして「易きに流れ」てしまったという事です。この「易きに流れる」とは“コンプライアンス違反”という事なのですが、具体的な事を挙げると、設備投資目的で受けた融資を運転資金として使いこんでしまう“資金使途不正”、架空売上の計上や融通手形などの“粉飾”、過積載や産地偽装等の“業法違反”、所得や資産の隠ぺいなどの“脱税”、その他にも雇用調整助成金の“不正受給”もありましたが、こういうコンプライアンス違反に手を染める事です。そして、そういうコンプライアンス違反が資金繰り支援を受けようとする中で発覚し信用を失ってしまったのです。そして、これは昨年だけの事ではなく、多くの企業でコロナ融資の返済が始まる今年も企業の存続の為にコンプライアンス違反に手を染めてしまい、それが発覚するケースが多数出ると予想されています。要するに今回紹介する記事は、こういうコンプライアンス違反に手を染めた企業の昨年の倒産件数が300件という記事だったのです。

この記事は私達にとってとても教訓になる良い記事だと思います。経営者はどれだけ資金繰りが苦しくても金融機関に対して、今はどうしてもこの状況だけれども、こういう改善策を実施し何とか業績を回復させるという事を丁寧に説明し、何とか理解頂き支援を受けるなりし、本当に苦しいとは思いますが、出来るだけ早く健全な状況に戻す努力をするべきであり、易きに流れコンプライアンス違反に手を染めてはいけないという事を肝に銘じてい頂きたいと思います。

前段が長くなってしまいましたが、当初予定していましたケーススタディに戻りたいと思います。4社の事例を挙げたいと思いますが、本日はそのうちの1社、「ライブドア社」について触れたいと思います。

【粉飾決算】
(3)ライブドア社

 もう古い話になりますが、ライブドア事件は2004年9月期年度の決算報告として提出された有価証券報告書に虚偽の内容がある疑い等がもたれた事件です。ライブドアといえば“ホリエモン”として認知されている方も多くいるかと思いますが、堀江貴文氏が東京大学在学中に仲間と企業したホームページ制作・管理運営をする会社が前身となり、会社設立から数年で当時の東証マザーズに上場する等して、急成長したインターネット関連事業を営む会社でした。記憶にある方もいらっしゃるかもしれませんが、プロ野球球団の買収や競馬場の再建等、当時話題に事欠かない会社でしたが、ある時突然ニッポン放送にTOBをかけた、つまり敵対的買収を行ったのです。TOBとはTake Over(買収する) Bit(値をつける)の略で株式公開買付の事です。話が少し飛びますが、当時そんな最中にあったライブドア社でしたが、業績が悪化し3億1300万円の赤字になってしまい、その赤字を黒字決算とする為に手を染めたことが事件となったのです。ライブドアが出資するライブドア社の傘下と言える投資事業組合があったのですが、その投資事業組合がライブドアの株式を売却した事によって得た利益を、ライブドア社の赤字を補填する為にライブドア社の利益として計上したのです。先ずこの段階で有価証券報告書の偽造となります。こうして傘下の組合が得た利益をライブドア社で53億円の利益として計上した事でライブドア社は黒字決算となりましたが、これはつまり“粉飾決算”に手を染めたという事なのです。こうして上場企業にあるまじきライブドア社の問題が発覚し、東証マザーズ上場廃止やホリエモンを始めライブドア取締役等が起訴される事態となったのです。時代の寵児であったライブドア社やホリエモンが起こした事件だった事もあり、当時はとても影響が大きく、またマスコミにも取り上げられていました。

次回は残りの3社についてのケーススタディをいたしますが、先に結論を挙げますとライブドア社と次回の3社も含めた4社には共通点があります。まずは“粉飾”、そして“ワンマン体質”という点です。何度もお伝えしている事ではありますが、この会では皆さんが“経営者になったら”という想定で色々な事をお話しております。経営者になった時、つまり権力を握った時に人はワンマンになってしまい、謙虚さを失ってしまいがちです。こういう各企業の事例から私達も学び、気を付けていかなければいけないですし、経営者になった時には謙虚さを失わず、粉飾に手を染める事のない様、自らを律しなければいけないということを肝に銘じてい頂きたいと思います。

今回のライブドア事件について私が思う事としては、粉飾決算に手を染めるのではなく、大変な苦労が伴うことは間違いありませんが、赤字決算となる見通しとなった時点で「ライブドア社は3億1300万円の赤字となってしまいましたが、関連会社ではこういう利益を上げており、当社としては今後こういう改善や事業展開をする事で利益を上げ、来期以降の業績を好転させていきますので、今期の赤字についてはご理解頂きたい。」という様な説明をする事で、金融機関や株主等の理解を求める事が必要だったのではないかということです。

今回は以上となります。次回も粉飾について残りの3社のケーススタディをする予定です。

以 上