第92回 千年企業研究会(福井塾)議事録

2月からの世相や現況、今後について

それでは千年企業研究会を本日から再開したいと思います。
今年は1月の開催後、ご承知の様に新型コロナウィルスの影響で、ずっとお休みにしておりましたから、今回は8か月ぶりの開催という事になります。
2月3月と新型コロナウィルス感染が拡大していき、国内では4月に緊急事態宣言が発出され、移動制限や外出自粛を余儀なくされました。当社でもリモートワークが始まり、基本的には人と人が離れて過ごす状況となりました。それでも5月には宣言が解除され、その後徐々に日常生活に戻り始め、出社する勤務スタイルに戻る会社も出てきておりました。
9月に入り、ある程度落ち着いてきた事もあり、久し振りにこの会を再開してみようと、しかもリモートで開催してみようと思い、今回の開催に至りました。このリモートでの開催が今後の新しいやり方、いわゆるニューノーマルになるのではないかと考えています。
オンライン開催のヒントの一つのエピソードとして、私の孫の大学の授業が全てオンラインで行っているという事でしたので、話を聞いてみたところ、「オンライン授業の場合、先生と生徒の距離が短くなったような気がする。質疑応答等のコミュニケーションも図れ、あながち悪いことばかりではない。」という話が出ました。もちろん、対面で人と接する事の大切さも十分に理解しているので、学校に行けない事はやはり寂しいとも言っていました。また、授業の内容といいますか、質という意味では、教室で全員が集中しているとは言えない状況の中で受講する事を考えると、オンラインでは個々の熱意や責任により授業に集中する事が出来るので、その点は寧ろ良いと思っているという事も言っておりました。
その様な話もヒントに愈々「千年企業研究会(福井塾)」、俗称として「三火会」を2月・8月を除く毎月第三火曜日の10時から開催させて頂きたいと考えておりますので、宜しくお願いします。

再スタートという事も含めて、私なりにここ数日考えてどのようなお話をするかという事を考えました。また、皆さん方の貴重な時間を割いて、参加して頂くという事も踏まえて、受講者の皆様にはオンラインで参加して頂くという形で、今後とも進めて行きたいと思います。
因みに今回で92回目の開催となりますので、あと8回開催すると100回となります。以前100回になったら、食事会に招待するという話を致しましたが、最近はコロナ禍もあり会食自体も難しいという事ですので、実施は難しいのではないかと思います。しかしながら、名誉会長へは100回開催させて頂きましたというご報告はさせて頂きたいと思っております。したがって、出欠はきちんと記録して頂きたいと思います。また議事録とは別にビデオ撮影をしていて後日視聴できる体制になっているとの事ですので、当日受講できない場合は後日そちらを視聴して頂きたいと思います。もし後日視聴されましたら、自己申告で是非申し出て下さい。それも出席とさせて頂きます。欲を言えば、リアルタイムで受講して頂くのが私の希望ではございますが、ご多忙な方も多いかと思いますので後日のビデオでの受講もぜひご活用頂ければと思っております。
また、この会の講義時間についてですが、今回のコロナ禍の影響で私もウェビナー等を受講してみて、50分という時間は集中して受講する気力や後日動画を見直すケースを考えた場合には長いと感じました。したがって、今までは50分程度でお話させて頂いておりましたが、今後は正味30分程度でお話をさせて頂き、その後、質疑応答の時間を設けたいと思っております。なお、講義の内容としましては知識的な研修を今後は極力行わないようにしようと考えています。この会の原点というものに立ち返り、私の拙い経験ではございますが皆様へ経営者たるもの、社長たるもの、管理者たるものが、会社においてその職位において如何にあるべきか、どういうことが求められているのかという事をお話していきたいと思います。そして今後について何かテーマを決めて、次回はこのようなテーマでお話したいということをアナウンスしていきたいと思っています。
今まで経営者として会計学が必要ですよ、これが必要ですよという講義の中で、コロナ禍による中断前は労働法関係というものが経営者として知っておくべきということで長い期間にわたり労働関係のお話をさせて頂いておりますが、そのお話についても締め括りになる様に今後暫くはお話をしていきたいと思います。

労働法関係

「労働法」と一言で言っておりますが、「労働法」という法律はありません。「労働基準法」を中心とした労働関係の法律、つまり「労働基準法」に始まり「労働関係調整法」「労働組合法」「男女雇用機会均等法」「労働安全衛生法」等、数多くの法律がありますが、それらを総称して「労働法」と呼称しております。
その中心となるものは「労働基準法」です。経営者として労働問題に対してどのような心構えが必要かというと、私なりに体得した事としては、自分が労働組合の委員長になったつもりで経営にあたることが大切だと思っていて、私自身もそういうことを思いながら実践してきたつもりです。
経営者や経営陣にも色々なタイプの人がいらっしゃいますが、「あの人は営業畑からきた」、「業務畑から来た」等と言われる事があります。私のビジネス人生は、スタートは人事スタッフや研修課にも携わりましたし、その後ひょんなことから労働組合の執行委員も3年程務めたこともあります。いわゆるドサ回りというものも経験し、その後就いたのが人事部長でした。役員になってからは色々な部署の担当役員も経験させて頂きました。その中でも人事部長、人事担当役員の時の経営協議会の際の経験はいまだに走馬灯のように夢に出てくることがある程で、自分のビジネス人生において労務というものを置いて語ることは出来ないと思っています。
この福神商事に来て、名誉会長と様々な対話をする中で何度も仰られる事として「社員ファースト」という言葉があります。因みに名誉会長が「社員ファースト」と仰られている事とと、私なりの表現の「労働組合の委員長のつもりで」という事はほぼ同義といえると感じています。
経営者、管理者は部下を持ったらその原点として「労働組合の委員長になったつもり」で、つまり「社員ファースト」の精神が必要だと思います。しかし誤解をしないで頂きたいのは「社員ファースト」は決して社員を甘やかす事ではなく、社員を育てるものであるという事です。また、きれいごとばかりではないという事です。給料を払わずに働けと言われても働く人はいません。賃金というものはやはり社員の満足度の根幹を為すものです。つまり、「社員ファースト」という事を突き詰めると究極は「賃金論」になります。経営者がどのような「賃金論」を持つかという事が非常に重要になります。各々夫々の賃金論をお持ちだと思います。その中で私の持論になってしまいますが、その賃金論の根底を為すものは「安定」なのです。これには異論があるとは思います。仕事で成果を上げた人は上げ、仕事をしない人は下げるべきという方もいるかと思います。色々なご意見がある事は承知しておりますが、その上で私の賃金論の根底は「安定」だと考えております。これは名誉会長のお言葉ですが「一旦決めたら下げない」という事です。支払う側、会社や経営側には一度決めた賃金の額を簡単に下げたりしないという事が大事ですし、逆に貰う側、従業員側には支給された範囲内で生活を営むということが原則だと思います。給料が多い少ないはあるとはいえ、サラリーマンは貰った給料の範囲内で自分の生計を立てていく、それが出来ないのはサラリーマンとしては無理だと思います。また可能であれば、額の多寡は夫々としても貯蓄していこうという精神がサラリーマンには必要だと思います。賃金論なのに貯蓄とは?と思われるかもしれませんが、賃金論は安定という先に申し上げた話に繋がります。
では、経営者的にはこの安定だけを目指せばいいかというと、私はそうは思ってはいません。ではどういうことが大事なのかといえば、学歴や職歴、職務年数、年齢、こういうその人の出自というものに対してどう考えるかということが関わってきます。色々な価値観があるとは思いますが、私は賃金を決める要因として先に挙げた学歴や職歴、職務年数、年齢ということは原則問わないことが肝要と考えます。現実に大卒の初任給と高卒の初任給が違うじゃないかと言われると思
いますが、「この人はこの人はいい大学を出てるから」とか「この人は中卒だから」とかではなく、経営者になり賃金を決める際に例えば初任給などは学歴など関係なく決めればいいと思っています。他に男女差なども必要だとは思っていないです。所謂出自に捉われず判断することが大事だと思います。ではそれだけでいいのかと言われると、やはり組織運営において格差、階級と言いますか、段階は必要だと思います。ただ根底に据えるべき事として賃金は出自によって決めるものではないということです。
では何で決めるのか、どこで格差を設けるかと言うと、私は「職位」だと申し上げます。ピラミッドやヒエラルキーなど色々な表現がありますが、厳然たるピラミッド型の企業組織の仕組みの中で会社を運営していく上では、最初は下の階層から始まりステップアップし階層が上がる、一般社員から段階を経て課長、部長、役員と上がっていき「職位」が上がっていく訳です。この職位に基づいて、その職位に相応しい賃金を保障していく事が必要であり、そうでなければ組織は成り立たないと思います。現実に部長より課長の方が働いている…などご意見はあるかもしれません。一般的には最初は肉体を動かす労働が占める割合が多く、職位が上がるにつれ、肉体よりも思考や頭脳を使う労働が占める割合が増えていき肉体を使う労働の割合が減っていく訳です。その中で、どういう風にその労働の価値をつまり貢献度を見出していくかという事がポイントとなります。その貢献度というのは職位が高く頭を使う人はどういう方向性で会社を運営するか、この事業から撤退するもしくはより力を入れて運営するかなど、その人の経験や知識や判断によって組織の方針を決めるという間違えられないことの重責、責任に対しての賃金の在り方が必要だと考えます。また、経営者や役員が決めた方針を伝達するのが中間管理職です。これらの役割、つまり職位による責任にも段階がありそれに応じて賃金に格差が設けられているのが賃金の在り方だと思います。その格差がどれだけあるか等はまた別の話です。そして、なにも上昇志向が良いという訳ではありませんが、一般社員から出来るだけ早く課長になりたい等の意欲を持つことの原動力はやはり賃金に裏付けされていると思います。社員が「自分が出来るだけ早く昇進したい」と思える組織でないといけないと思います。そう思えない組織は発展性がない組織であると言えるのではないでしょうか。きちんとした信念できちんとした組織を形成したならば、その職位に応じた賃金を保障していく事が必要だと思います。ただ、組織の中では職種ごと、つまり特殊な技能を持ち組織に貢献している場合、営業で能力を発揮した場合など様々なケースがあります。それは職位による格差とは別の次元でインセンティブなどの賃金や保障を設けるべきで職位による賃金の格差とはまた別の職種や業務・技能等を根拠にした貢献度による格差の話になります。こういうことをきちんとやっていく企業というのは非常に大事だと思います。
最後に賃金論について、私がお伝えしたいのは「経営者たるもの賃金というのは世間の平均並みを下回らない」という事です。企業規模や業種など同じ程度の他社の同じような職位と比べて世間並みを下回らない事が大事だと思います。人を雇い仕事をさせる訳ですから、その人には世間並の給料水準は維持してあげる、これは経営者たるもの最低限の社員ファーストだと思います。そういう事が出来た上で教育体系や風通しの良さなどの社風や制度の整備、福利厚生などが付随していくものだと思います。やはり社員ファーストというのはきれいごとを言っていては駄目で賃金体系がきちんとしているという事が大原則です。

本日はここまでとします。次は労働に関する訴訟についてお話をしたいと思います。労働基準法というのは強行法規なのです。これには罰則があります、訴訟もあります、その事について、どのように考えていくかという問題についてお話したいと思います。そのあとは労働組合についてお話をしたいと思っています。また残業問題についても項を新たにしてお話をしたいと思います。労働関係としては後2~3項目を労働法のお話として取り上げたいと思っております。