第88回 アメリカでの研修を通して感じたこと
令和元年10月15日
千年企業研究会(福井塾)議事録
■アメリカでの研修を通して感じたこと・・・特に語学に関して・・・
ご案内の通り、今回は英語の話をしたいと思います。
英語の話と言っても中学・高校の時に学んだ様な英語の勉強をする訳ではありません。私もそれほど英語が得意という訳ではございませんが、このところお話をさせて頂いている様にアメリカで過ごした3か月の研修期間が非常に貴重な時間であり、その際の体験談が少しは皆さんのお役に立つのではないかと考えておりますので、英語でコミュニケーションを図る為には何が重要かという話をしたいと思います。実際、アメリカでの研修がなければ、私のその後の人生が全く変わっていたのではないかと思っています。逆説的に言えば、あの3か月間のお陰で今の私があるといっても過言ではありません。
自分の人生75年からすれば、“たったの”3ヵ月ではありますが、でも私にとってみれば、研修という名の教育を受けたことに間違いありません。教育といえば小学校から大学に至るまで長期間に及ぶ訳ですが、私の場合には特に高校や大学での教育が大きな影響を受けたと思います。しかしながら、アメリカでの3ヵ月間はそれに匹敵する位、もしかしたらそれ以上の影響を私の人生へ与えた期間であった様に思います。
さて、アメリカに着いたばかりの頃は英語を全く聞き取る事が出来なかった私がどの様にして英語圏での研修期間を乗り切ったかというお話をしたいと思います。ただ、最初にお断りしておきますが、経営者になるのに英語が必須かと言うと少なくとも我が社では必要ありません。我が社もそうですが、グループ会社の方も恐らくそうではないでしょうか?少なくとも国内だけで営業している企業にとって、英語は必須ではないはずです。これからお話する事を英語に興味がある方は語学の勉強として捉えて頂いても結構ですが、今から話すことはそこに経営の神髄があると思うからです。
今回は①英語の重要性についてを前段でお話をして、次に②3か月間の研修はどんな研修だったのかについて、そして③肝心のどうやって意思疎通を図ったかについて話をさせて頂きます。
①何故今英語が重要かについて、話をするのかと申しますと、50年位前から国際化時代を迎え、英語の重要性については当時から言われていましたが、今になって、つくづく思うのは日常生活の中で英語は本当に大事だなという事です。
卑近な例で言いますとラグビーの試合を見ていても英語を理解出来ているかどうかでかなりの違いが出てくると感じました。レフェリーはイタリア人やフランス人、イギリス人や韓国人、更には日本人のレフェリー等、多くの国籍の人がいる訳ですが、当然ながら英語で審判を行い、選手とのコミュニケーションを取り、試合を運営しています。ラグビーを始めスポーツは英語が出来ないと国際試合もままなりません。ラグビーをテレビで見ていても例えばスクラムを組む場面でも最初にレフェリーの「クラッチ」の掛け声で腰を落とし、その次に「ファイン」で相手を掴み、「セット」で押し合う訳です。この手順を英語で行っている事を選手は英語でコミュニケーションを取っているという意識はないでしょう。当然ですがスクラムを組む場面だけではなく、ボールが落下した場合の「ノックオン」やボールを前に投げる「スローフォワード」などすべてが英語です。
丁度いいと申しますか、来年はオリンピックも開催されます。残り1年を切りましたが、何百万人もの海外の方が訪れる訳ですから、海外の方へ話し掛けなさいとは言わないまでもコミュニケーションを取るうえでどのような姿勢でいた方がいいかをお伝え出来ればと思います。これから国際人としてのマナーとしてどのような姿勢でいるべきかについて実感した事を今回お伝えし、今後海外の方とのコミュニケーションをとる場に遭遇した際に、極論で言えば、外国語が話せる話せないは関係ないのだという事、コミュニケーションは語学ではないという事をお伝えしたいのです。
②それでは改めてどのような研修だったかについて掻い摘んで説明しますと、受講内容はまずは銀行経営全般です。次に融資制度、最後に人事制度の3部門です。具体的な研修方法は、現地で組まれたプログラムに従い、担当者からの指示に従い、オフィサーのもとへ訪ねて、研修を受講する訳です。そこには当然通訳など用意されておりません。だいたい1単位は50分、その内40分で講義を行い、残りの10分は質問時間というパターンが多かった様に思います。
引き続き③意思疎通の話に入りますが、1か月目はイリノイ州のバンクオブシカゴでまず研修を受け、2か月目にはニューヨーク州へ移動しニューヨークバンクで研修を受け、3か月目はコネチカット州にあるハートフォードという小さな町に本店があるコネチカット信託銀行で研修を受けました。このコネチカット銀行を訪ねた時の思い出があります。途中で道に迷って「コネチカット銀行はどこにあるのですか?」と地元の人に尋ねた時、「コネチカット」と発音をしても全く通じないのです。最終的に「(ヶ)ネディカッ(ト)」と言わなければ通じなかったのです。まず英語はボソボソと小さな声で発声したところで相手には伝わりませんので、大きく明瞭に単語を発音することが大切です。またその発音にもコツがありますが、そちらは後ほどお伝えします。またアクセントを強調してしすぎるということはないといえます。特に第一アクセントの位置とその強調が重要で第一アクセントの発音に比重が大変重く置かれています。第一アクセントの位置を間違えると全く伝わりません。ペンシルバニア州のPhiladelphiaも同様で、「フィラデルフィア」ではなく「(フィラ)デルフィ(ア)」と発音すると伝わります。英語の発音で相手に伝えようとした場合、第一アクセントの発音と強調が重要で単語の最後の音まで発音しない位の気持ちで強調すべきところをとにかく強調した発音をすることが肝要です。次に、今でも覚えているのが人事制度の研修で給与台帳の事を“Payroll”というのですが、研修中は「ペロー」と聞こえるのですが、それが給与台帳だとはわからずその日は仕方がないので「ペロー?…ペイロール?」とホテルに帰ってから辞書を使って意味を調べる訳です。要するに何も判らない状態で研修を受講しているので、とにかくホテルに帰ってきてから辞書で調べるしかない訳です。
そういう事を繰り返している内に、だんだん聞き取りが出来る様になってきますし、何を言おうとしているのかが判り始める様になってくる訳です。また大事なのは新聞等をよく読む事をしておかないと、今の時事問題などを振られても判らない状態になってしまうのです。当時の時事問題として『ウォーター・ゲート事件』というものがありました。これは共和党のニクソン大統領が民主党の本部に盗聴器を仕掛けたという政治スキャンダルだったのですが、当時の新聞はもちろんテレビもどこのチャンネルをつけてもその話題が連日報道されている状態でした。テレビの報道を聴いてみると「ワラゲィ」と聴こえてくるのですが、新聞やテレビでは『ウォーター・ゲート』と文字が表示されていたのでそちらは読めるので、「ウォーター・ゲート?水の門?何か水門で事故でも起きたのか?」と最初は思っておりました。新聞でウォーター・ゲートを読み進めていくとどうやら水難事故ではなく、盗聴などの内容が読み取れていくわけで、どうやら政治スキャンダルだというように理解が進んでいきました。研修期間中は銀行の役員に招待を受け会食をすることもあったのですがその際にはこの『ウォーター・ゲート事件』についてどう思うかという話題が降られる訳です。テレビ報道や新聞などを読み、判らないなりにそのことについて当時は話をしたりしなければならなかった時代でした。ここからが本題で、ではこのような状態でどうやって意思疎通をとったかについて、重要なのが語学力はもちろん大切ですが、相手との意思疎通を図るというコミュニケーションの中での重要性という観点で見た場合、語学力が占める割合は2割程度だということです。一番重要なのは人間関係で3~4割程度の重要性を占めています。
また、言語によるコミュニケーションをとる場合に重要なのは、1点にのみ集中しすぎないことです。どういうことかといいますと、相手が話をしている時にその言葉の一字一句を訳そうとしてしまうと、相手が伝えようとしている全貌をとらえ損ねてしまうということです。私は当初一字一句訳そうとしてしまっていたのですが、自分が知っている単語が聞き取れるとそれを頭の中で日本語に訳そうとしている間に、話している相手の方の言葉が次々と流れて行ってしまっているのです。そのようなことをしていると相手が伝えたいことを理解することはできません。そうしているうちにある時に気が付きました。これは一字一句聞き取りをしようとしてはいけない、まずはワンセンテンスを黙って聞こうということです。言葉自体は判りませんが、研修を受けている時には英文ではあるものの、講義内容についての資料が配布されているので事前に自分で資料の内容を訳し受講する準備を整えておき、講義中にも補足資料として図や地図など視覚的な資料も用意し講義をして下さっていました。そういう状態で講義中は講師の言葉をところどころ聞き取り繋ぎ合わせて講師が私たちに何を伝えたいと思っているのか想像をするのです。少々無茶だと思われるかもしれませんが、それが一番コミュニケーションをとるために必要なことだと思いました。言葉を話しているという要素以外の部分もコミュニケーションをとる上で重要で、視覚的な要素(資料の配布や地図などの用意)や話し手がとるジェスチャーや表情、抑揚などあらゆる五感を通じて伝わるものです。実際にアメリカ研修期間中に私が経験したことですが、ある日地下鉄の乗り継ぎを誤ってしまい遅刻してしまったことがあります。
その際に講師役のオフィサーにかなりの剣幕で怒られました。当然英語で怒られていて何を言われているかはわかりませんが、ジェスチャーや表情、語気で怒っていることはとにかく伝わってくるわけでこちらは平謝りするしかない訳です。Listeningつまり耳で聞くだけでは不十分なのです。繰り返しますが大切なのは目で発音時の口の動きや資料やノートをよく見ること、それから熱意です。熱意というのは万国共通です。先程少し触れましたが研修期間中の講義は1単位50分程度で最後の10分で質問時間を設けられていたのですが、その質問時間で判らないなりに何でも良いので何か1つ質問をすると、その質問に対してオフィサーとの会話が生まれそれで5分程度時間が経ってしまうのです。この“英語で質問をする”ということが難しいと思われるかもしれませんが、コツがあります。皆さんご存知かと思います「5W1H」、これをまず言うのです。“それが何か”ということを質問したいときは「WHAT」とまず言います、そうすると相手はその点に留意して話を聞いてくれます。「WHERE」といえば場所について質問されていると思いながら聞いてくれますし、「WHEN」といえば時(とき)ついての質問だと思いながら、先ほども触れましたがこちらの話を“私が何を伝えたいかを想像しながら聞いてくれます。文法や発音が拙くても、ジャパニーズイングリッシュでも良いのでゆっくりと、きれいに整えた文法を組み立てるよりもまず相手に5W1Hを伝えてしまうことです。その言葉を発してしまうと、その後何かを続けない訳にはいかなくなりますし、相手はこちらが発した5W1Hを元に私が何を尋ねたいかを想像し理解をしようとしてくれます。
こうしてお互いに相手の話を理解する為に五感や想像力を働かせ、会話のキャッチボールを成立させるのです。ですのでまずは大きいな明るい声で、いざとなればとっさに日本語を使っても通じることがあります。実際に相手の方が日本語を訳して理解しているかということではなく、こちらが伝えたいという熱意により相手へ伝わる、つまり先程もお話させて頂きましたが意思疎通は熱意ということ、熱意は相手に伝わるのです。きれいな文法できれいな発音で文章を作ろうとはしなくても良いというといいすぎかもしれませんが、例えば質問内容をきれいな文章を5分かけて作り言葉を発していると会話が成り立たないのです。ですので単語1つ、熟語1つでも良いので発することが会話をするうえでは大切で、例えば「Thank you」という感謝の言葉を発すれば、相手には私が感謝していることがちゃんと伝わるのです。その言葉の後に何について感謝しているかを精一杯、自分が知っている単語を連ねることで何とか相手にも私が何について感謝をしているか伝わります。逆に黙っている状態は相手には何も伝わらないですし、相手からしたら私が何を考えているのかが判らず困る状況になる訳です。
たとえその沈黙している間にきれいな文法で組み立てた文章を考えていたとしても、相手からみたら困ってしまう嫌な時間となってしまうのです。“Silent”、つまり沈黙はコミュニケーションをとる上では最悪と言えるのです。日本人は恥ずかしがり屋で“Silent”つまり黙ってしまいがちですが、それはアメリカでコミュニケーションをとる上では障害となるとある日私は気が付きました。そこで「恥ずかしがり屋の日本人だから発言することに恥じらいを感じてしまうのであれば、今日から私はアメリカ人になりきろう!」と思いました。そもそもアメリカはインディアンやヒスパニック系、アジア系など多様な人種で形成された国家ですので、そこに日本人が混ざったところで周囲に溶け込んでしまう訳です。先だってからお伝えしておりますが、経営などはもちろん、我々の日常生活においてもまず人間関係を作ることが大事だということです。それは国家や言語を超えて当てはまることだと、アメリカ研修期間の経験を通じて感じたことです。余談になりますが、アメリカ研修の際にその当時勤めていた銀行が“お土産セット”を持たせて送り出してくれました。お土産セットの内容としては海外の方にむけた“富士山の絵葉書”、“5円玉”、“風呂敷(絹)”でした。研修を担当してくださる各オフィサーのもとへ伺った時にそのお土産セットを持参し相手に贈る為に用意されたものでした。これを用意してくれたことが大変有難いなと実感した訳ですが、訪問した際に「This is souvenir from Japan for you.only you」とまずは先に担当者にこれをお渡しするのです。そうすると相手の方は喜んで下さり、会話が弾み場が持ち、いきなり講義を受けるのではなくまずは冗談なども交えたコミュニケーションを取る事が出来、打ち解ける事が出来たのです。
繰り返しになりますが、コミュニケーションを取る上で重要なのは、語学よりも伝えよう・理解しようとする意志や情熱であり、語学が堪能ではなくてもこれがあれば表情や抑揚、ジェスチャーなどでコミュニケーションを取る事が出来るのです。
次回は、純粋に英語の勉強といいますか、Listeningが一番難しい訳ですが、そのListeningがなぜ難しいかというお話をさせて頂き、コツをお伝え出来ればと思います。