第96回 千年企業研究会(福井塾)議事録
■労働法の纏め【組合の目的や役割】
本日は、経営者に直接関係のある話ではないのですが、私が個人的に経営者や管理者にとって、とても重要ではないかと思っている事について、お話したいと考えています。前回迄は労働組合との対処の仕方について、お話をさせて頂いておりますが、本日はそこからの発展的な内容となります。
労働組合の目的・役割はたくさんある訳ですが、私が個人的に特に重要だと思うことがあります。先ずは「労働条件の改善」。次に「企業の経営状況のチェック機能」という事です。この2つが組合の主な目的であり組合の役割だと思います。これを踏まえた上で3つ目について、本日お話をしたいと思います。
この3つ目は何かというと「政治への介入」という事です。先に挙げた2つの目的、つまり企業を発展させ、自分達の生活を守る事、労働環境を改善していくといった目的の為には、個別の企業の経営状況や労働環境等をミクロ的に改善していくだけでは限界があるという事を組合自体も感じています。つまり自分達の労働環境や生活を改善する為には、個別の企業が改善していくだけでは不十分で、社会全体を改善していくことが必要となってくるという事です。その為には政治への介入が必要となってくるという事を組合自体も労働組合の役割と考えているという事です。
労働組合において、政治への介入する力が特に大きかったのは、戦後間もない時期から高度経済成長期の頃迄の間であり、この期間は労働組合の役割上、「政治への介入」という3番目の役割も先に挙げた2点と同様に大変重要だったのです。
会社を変えていく為には、1人1人の労働者の力だけでは弱いので、団結し組合をつくり、強い経営者に対して組合として対峙してく為に労働組合が結成されます。ですが、社会の改革をしていく為には個別の労働組合だけでは力不足です。その為、個別の労働組合が団結し業界内での上部団体つまり産業別組合という考え方で団結していくのです。実はこの産業別組合というのは、特にアメリカ等で非常に強いと言われており、例えば自動車産業として組合があるという様な事です。日本の場合はこの産業別とほぼイコールになるのですが、同じ業界の人たち(組合)が集まってその業界の上部団体というものを結成しています。これはどこの業界でもあります。例えば自動車産業の場合、上部団体は“自動車総連”、金属産業などは“金属労協”もありますし、鉄鋼会社は“鉄鋼労連”(※統合により基幹労連へ)、教育関係の組合であれば“日教組”が有名です。この様に業種別に上部団体があります。では、何故、上部団体が必要かというと、社会における自分達の業界そのものの地位を向上させる為です。しかしながら、その個別の業界が改善されても社会全体を改善するには力不足ですので、社会全体の改善に取り組む為に更に業種の垣根を超えて、上部団体を纏める団体が必要となっていくのです。
こうして業種別にある労働団体の、ある意味最上位団体としてできたのが“総評(日本労働組合総評議会)”と“同盟(全日本労働総同盟)”です。
“総評”はどちらかというと公務員、自治労や日教組など官公労を中心に結成され、“同盟”は民間(産業別)の労働組合を中心に結成されました。本来は1つに団結した方が良いのですが、この二つの団体は目指すべき方向性が違ったのです。当時の“総評”や“同盟”がどう違ったのかといいますと、一概に断言できるものではないのですが、“総評”の方はどちらかというと社会主義社会の実現によって、賃金や労働環境の改善を目的とする傾向がありました。“同盟”は民間会社の組合が多かった事もあり、その傾向としては社会主義や自由主義といった思想等には、それほど拘らず、どちらかというと個別の企業(産業)の生産性の向上を図る事で賃金の向上を実現、また企業(経営者)に対しても話し合いを基本とする民主的な労働運動を展開していく事で、労働環境の改善を図る事を目的としている傾向がありました。一概に言える訳ではありませんが、“総評”の方は労働環境の改善等の要求が通らない場合はストライキなどを敢行していた傾向がありました。“同盟”の方は、ストライキは最終手段でその前に経営協議会により、経営者と労働者が話し合い、結論を導き出そうという傾向がありました。
実はここからが非常に配慮が必要な難しい話になります。先程、お話ししましたが、組合の3つ目の目的、特に戦後間もなくから高度経済成長期にかけては特に政治に関わる力が強かったという経緯について、説明をする上で、場合によっては偏見のように見えてしまうかもしれませんし、これから政党等の話もするのですが、特定の政党の良し悪しや批判等の話をしたい訳ではないという事をご理解のうえ、お聞きい頂ければと思います。
“総評”や“同盟”が当時、どの政党を支持していたかというと、“総評”は社会党を、“同盟”は民社党を支持していました。そうした背景の違いがあった訳ですが“総評”も労働組合の上部団体、“同盟”も労働組合の上部団体で、どちらも目的としては個別の労働者の地位向上を目指しているという点では目的は同じであった事から、2つに分かれている事で、政治への介入する力が弱まっていると考え、合併した方が良いと合併して出来たのが“連合(日本労働組合総連合会)”という組織です。“総評”は社会党を、“同盟”は民社党を支持している状態で合併しているので、“連合”は社会党と民社党を支持している状態だったのです。労働組合が“連合”として1つに統合したのだから政党が分かれている状態は望ましくないという事で政党が合併し、新しい党として民主党が結成されます。こうして“連合”として1つに纏まった団体が結成されました。また政党も社会党と民社党が1つに纏まった民主党(民進党)も結成された訳ですが、政党内でも社会主義を標榜する人の派閥と社会主義を標榜しても政権は取れない資本主義社会で自由主義を容認するという派閥で折り合わない、自衛隊を容認するしない等でも様々な点で意見が折り合わない等もあり、また分裂し立憲民主党と国民民主党になりました。ですが、やはり分裂していては駄目だという事で、これは最近の話ですが、皆さんもご存じの様に立憲民主党と国民民主党で合流し、新党として立憲民主党が結成されました。ですが、国民民主党を支持していた労働組合等は立憲民主党の政策等の意見が合わず、同党に合流せず、国民民主党を支持しているということが起きております。例えば立憲民主党は「原発ゼロ」がスローガンですが、政党を支持する“連合”内には原発で働く労働者の組合もあります。つまり、このスローガンはその組合関係者、業界にとっては死活問題になるのです。政党の基本政策にこのスローガンを盛り込もうとしても政党の支持者である“連合”はその点を支持できないというようなことが起きています。
何故、このような話をするかというと、戦後75年の歴史をよく記憶に留めて頂きたいと思いますが、組合というものを背景にして成り立っている政党はどうしても「合従連衡」を繰り返す事になります。この様な人達が良いとか悪いという話ではなく、戦後から一貫して流れている労働運動の大きな潮流と、それを支持している政党との繋がりの話として歴史的に合従連衡を繰り返してきたという事です。
連合も分裂こそしていませんが、非常に運営が厳しい訳です。連合内でも様々な意見の対立があり、組合内での一年の闘争方針を作るのにも意見の取り纏めが難しく、文言の表現を工夫する事等で舵取りに苦慮して、今に至っている歴史があり、だから野党側について考える時にはこういう流れがあって、今の状態の立憲民主党や国民民主党などの政党があるということを経営者として、管理者として、社会常識として、一つ記憶に留めて頂ければと思います。政治に対する関心度が増しますし、こういうことを知っていると毎日、新聞等を読む際にも興味深く読む事が出来るのではないかと思います。
今日は上部団体の話から労働組合の大きな歴史についてお話をさせて頂きました。福神グループには労働組合がないから、あまり関係ないように思われるかもしれませんが、社会常識として知っておくべきだと私は考えておりますので、お話しさせて頂きました。
最後に、労働運動や労働組合のお話しの最後として、労働争議に巻き込まれる、例えば団体交渉を受けるという事、福神グループでは組合がないから絶対にないと言い切れるかといえば、断言出来るものではないのです。これは非常に重要な事です。労働者は何れの企業で働いていても、1人で組合に入ることが出来ます。色々ありますが、有名なのが“サラリーマンユニオン”や“管理職ユニオン”等です。
ある会社の事例ですがこの会社には研究開発部門があり、おおぜいの開発社員の中に10名程度の研究員が所属していました。約10年がかりのプロジェクトとして新しい製品の開発に取り組んでいたのですが、そのプロジェクトは当時既に10年程度は経過していたかと思いますが、それでも成果が出ていない状況でした。また設備等でも何十億円も掛かっていたいたのではないかと思います。この研究の成果が出たら莫大な利益が期待出来る事もあり、研究スタッフも他社から高額な報酬など良い待遇でヘッドハンティングして集めていたそうです。そんな状況下、ある日、経営側がそのプロジェクトに係る責任者に成果が上がらない事、成果が上がる目途等について、追及したところ芳しい返答が出なかった様で、即日クビ(解雇)を言い渡してしまいました。その責任者だけではなくプロジェクトに係る研究員10名程度もやはり同様に解雇を言い渡してしまいました。しかも退職金も不支給でした。経営側の意見としてはプロジェクト自体にも莫大な資金と時間が掛かり、尚且つ研究員の報酬(給与)も大変高い額を支払っていたにも関わらず、それでも成果も利益も出ていないという点が経営者として看過出来ず、退職金や解雇予告も出したくないという事でした。そうした中、その解雇された中のある一人がサラリーマンユニオンに加入した様で、サラリーマンユニオンの書記長から話がしたいとその会社に連絡がありました。サラリーマンユニオンの言い分は、この件の事で、退職金を支給しない事や、解雇予告もなく解雇の理由も定かではない、開発が出来ていないと言われても個人の責任に帰す事ではないので、不当な処遇であるということで事実関係はどうなのかという訴えでした。経営側は反論をしましたが、相手の方からはそちらがそういう姿勢であるならば明日から赤旗を立てて本社を取り巻いて抗議しますというような回答でした。経営側は話合いだけでも応じましょうという事で、次回の日程等を提示され、夫々の要求書を渡され、解決できないのであれば、こういう手段をとりますというような事が記載されていました。
結論として、経営側にも経営側の言い分はありますので断固拒否、話し合いを続けましたが中々折り合わず、そのうち、「駅前などでチラシを配る等団体交渉を実行します。」という話なども出てきたようです。中立的な立場で聞くと解雇された側の言い分にも理解できる部分がありますし、逆に経営側の言い分にも理解できる部分がありました。そのような中でも順々にこの会社は相当な苦労の末、サラリーマンユニオンの要求を聞き入れざるを得なくなったようです。でも順々に労務担当役員は経営陣を説得し、法律の話し等も伝え、譲歩を引き出していき説得し、最終的に折り合いを付けることができました。要は労働組合が無い、上部団体がある訳でも無いという事であっても、こうしたサラリーマンユニオンという様な制度もありますので、労働組合のない福神グループだからといって、関係ないという事ではないのです。
経営者はもちろん、管理者も労働基準法を守る、ハラスメント等も含めて法律に書かれている労働のルールを守る、経営陣がまずは襟を正す、そして上級管理職の人達は自分自身もそうですし、自分の部下達もそういう目に合わせない為にも襟を正すことが大切です。こういう事は気の緩みで決壊する可能性がありますので、これまでお話してきた様な労働組合の話やユニオンの話、社会常識としての上部団体や政党に係る話、そういうものについてあまりに無関心である姿勢は取らないで頂きたいなと思います。
次回は経営者団体、経営者の側はどのような組織があるのかということと“日本生産性本部”について、具体的に労働生産性を上げる方法はどうすればいいのかという話や、最後に残業に対する考え方について少しお話したいと思います。