第113回 千年企業研究会(福井塾)議事録
令和4年10月18日
■株主総会の決議事項とその必要株数比率について
前回まで「アート引越センター」について、日本経済新聞の「私の履歴書」に掲載されていた内容を教材として、①経営とは何か、②社長とはどうあるべきか、③取締役とはどうあるべきかという事について、話をして参りましたが、本日は、皆様の様な役職(部長・次長)の方が、仕事をする上で、何か参考になる事もお話したいと思っております。私の経験の中から、様々な考え方によって当時、自分が乗り切ってきた事等、思い出しながら、講義を通じて話していきますので、何か一つでもいいですから、自分の仕事に役に立ったと感じ取って頂ける事があったとすれば、私としては大満足です。
「アート引越センター」の寺田氏が上場してから非常に苦労した事については、繰り返し話をさせて頂いておりますが、その中でも今回は、「株主総会」を乗り切る話から派生させて、「株主総会」での議決事項と必要株数について、「大塚家具」を例に挙げて、掘り下げて話をしてみたいと思います。
通常の株主総会では、可決の必要な議案が幾つかありますが、議案内容によって必要となる株式数が異なっています。大塚家具については、その株主総会において、父と娘の経営方針の対立によるプロキシィーファイト(委任状集め)が注目を集めました。
【主な決議事項と株数】
1.普通決議 出席者の1/2以上の株式数(委任状OK)
①取締役の選任
②監査役の選任
③決算書の承認
④その他定款で決めた事項
※先ずは51%以上の株数を持つ事が出来れば安心。誰が取締役になるかが重要で自分の意見が通る。
2.特別決議 出席者の2/3以上の株式数(委任状OK)
①定款の変更(定款は会社の憲法)
②吸収合併・会社分割
③資本金の減額
3.特別決議(→主に会社をたたむ時)
①残余財産の分配
②剰余金の配当
【当グループの株式割合】
福神商事は名誉会長90%、奥様10%
ユナイテッド不動産 名誉会長100%
全ての議案については、名誉会長が承認されればOK
【新会社設立】
新会社設立時にAが1/3、 Bが1/3、 Cが1/3 の株式を所有していた場合、将来的に会社の経営方針に違いが出た場合、プロキシィーファイトが行われる可能性が大きいと思います。会社設立時には、資金支援が必要であり、株式発行という形で資金調達を実施し、同時に経営権を持って貰う事が基本的な流れですが、会社規模が大きくなるにつれ、経営方針の方向性に違いが出てくる事も多くあり、株式比率については、経営権を明確にするため、Aさん51%、Bさん49%という形で纏めて、更に2/3まで取得する事になれば、自分が会社から退く事にはなりません。
【株主総会】
株主総会が近づくと、先ず10社程の大株主(特に銀行関係)に、決算説明(利益、役員)をして回ります。銀行関係は、1法人の株式を5%以上取得する事が出来ませんので、当時は都市銀行を始め、銀行が多数存在していた事もあり、各行の金融法人部という部署を訪問する仕事が、かなり労力のいる業務となっておりました。また、特定の大株主以外でも、積立方式で社員に株式を持たせる従業員持ち株会がある法人もあり、出資の残高に応じて配当を受ける事が可能で、一定の株式を持つと引き出し権(100株程度)を取得する事が出来ます。
【大塚家具の件】
家具販売の経営方針で創業者:大塚勝久氏と娘:久美子氏が対立
最終的な経営権を株主総会にて株主に委ねる事となる。
〇父(勝久氏)は、対立する娘(久美子氏)も取締役になる案。
〇娘(久美子氏)は、父(勝久氏)が取締役から外れる案。
取締役については夫々が選任する候補で決議が図られる。結果、久美子氏の案が可決(僅差で勝利)。勝久氏は大塚家具を去る事となる。
その後、大塚家具は久美子氏が経営権を握り経営するものの業績が低迷(4期連続赤字)し、ヤマダ電機の傘下に入る。
【大塚家具から学ぶこと】
(1)経営のありかたの相違
父 高級路線 高卒 家具職人
お客様を大事に、細かく接客、案内して長く使ってもらう家具を提供
現在、大塚家具を離れ「匠大塚㈱」設立
娘 大衆化路線 大卒(一橋) 富士銀行 コンサル会社勤務
(2)主な家具販売チェーン業績
ニトリ 売上 5,000億円 純利益 600億円
島忠 売上 1,500億円 純利益 60億円
大塚家具 売上 450億円 純利益 なし
イケア 売上 4兆円(全世界)
今迄「大塚家具」が業績を伸ばす事が出来た要因は、家具業界のニッチな マーケットを攻めて営業してきた事であったが、長く経営学を学んできた娘(久美子)が、その方針を完全否定。自らの大衆化路線で営業を始めたのが、顧客および取引先離れを生み、業績低迷、売上高の大幅な落ち込みを引き起こす事になったのではないかと思います。
経営で大事な事は、人間力であるという事を次回話をします。
以 上