第114回 千年企業研究会(福井塾)議事録
令和4年11月18日
■経営者の力量とは
前回までの流れとして、日本経済新聞の連載「私の履歴書」に掲載されたアート引越センターの話から派生し、株主総会の大変さについてお話しました。更に株主総会という事でプロキシーファイトの話から大塚家具の事例についても触れてきました。大塚家具のプロキシーファイトやその後の状況についての原因について、どうこうではなく、この事例を通じて今までこの会を通してお話してきた事でもありますが、経営者として所謂観念的な部分で何が必要なのかという事について今回お話していきたいと思います。
経営者の力量といいますか、経営者には何を求められているかという事についてですが、大きく分けて観念的な部分と実務的な部分があります。今回はこの観点的な部分について触れたいと思います。
(1)経営力
①経営知識
②計数分析力
③達意力
(2)人間力
①倫理(コンプライアンスの精神)
・自ら悪事を働かない
②利他
・人に対する思いやり
・社員ファーストの精神
・「私心」にとらわれない
③謙虚
これまでお話してきた事の復習でもありますが、先ずは“経営力”、それからもう一つは“人間力”です。表現は色々とありますが“人間力”というのは所謂、人としての常識的な部分がきちんとしているという事です。経営者にはこれが必要という事を以前お話したかと思います。この2つが観念的には非常に大事だという事です。実務的な部分では“利益を出す”等、色々とありますが、それはまた後程お話させて頂きます。
ここで挙げた“経営力”とは、大きく3つに集約されると言えます。先ずはやはり経営知識です。この会でも経営知識をベースに時々脱線しながらお話してきている訳ですが、経営力の中で1番重要と言えるのが経営知識です。この会を振り返って頂いても判る様に最初に会社法、次に会計学、そして労働法についてお話をしてきました。今はアート引越センターの話から派生し、少し脱線しながらも大事な部分についてお話をしているところです。今までのお話を振り返って、経営者としてのあるべき姿というものについてみてみるというのが今この時間という訳です。この話が終わったら法人税法、つまり税金関係についてお話する予定ですが、これも非常に重要です。会社法をある程度理解し、会計学の企業の計数というものをどう読み取るかを大体判って、人の使い方を判って、それから税金が判る。私の経験から言ってもこういう知識を持っていたら強いと言えます。
経営力の3つの要素の内の2つ目としては、計数分析力を挙げたいと思います。経営者とはやはり計数に強い人でないと務まらないと言えます。計数分析力があると強いと言えます。それは何故かと言うと以前もお話したかと思いますが、出てきた計数を分析することも重要ですが、その分析した事を基に方向性、つまりこれからどういう風に努力をしていかなければならないかという事を見出さなければいけないという事です。こういう事も含めて全体で計数分析力と言う表現をしています。当然、皆さんも進むべき道を自分なりに発信していくと思いますが、その発信も計数的な裏付けがなければ、その意義が薄れてしまいます。様々な資料を作成してもその根拠として計数的な裏打ちがあるかないかでその方向性に対しての信頼性が担保される訳です。どなたが仰った事かは失念してしまいましたが、正にその通りと思った言葉がありまして『計数に裏打ちされていない経営政策は寝言である』というものです。やはり会社というものは計数に裏打ちされて何が問題なのかという事を把握していかなければならないからです。
経営力の3つの要素のうち3つ目としては、達意力です。達意力と言われても何の事かとお思いになるかもしれません。達意力は経営者だけの話ではなく職位が上になればなるほど必要になってきます。この達意力とは何かということを説明したいと思います。先に触れた経営知識や計数分析力を駆使して1つの政策を自分で打ち立てたとします。そうしたら、その事を周囲に伝えて一人一人に理解してもらい、その理解の上で各自に実現する為に行動してもらわなければいけない訳です。つまり周囲の一人一人がきちんと自分の打ち立てた政策に対して理解をして行動をしているかという事が重要になってくる訳です。ですから、先程もお伝えした計数分析が大事ではあるのですが、分析した結果に裏打ちされた行動指針をきちんと周囲に伝える力というものが非常に重要なのです。この3つの力があれば経営力がある人ということが言えるかと思います。
次に人間力についてですが、経営者の力量として“経営力”と“人間力”が求められるという事でお話をしていますが、その必要性の比率として “経営力”は3割程度、“人間力”は7割程度、つまり“人間力”の方が大事だと私は思っております。ではこの“人間力”とは何かと言いますと、これも大きく3つに分けております。
1つ目は倫理観です。これは名誉会長もよく仰っておりますが「倫理観のない人はダメだ」と、どれほど立派な学歴や経歴がある人でも倫理観のない人は箸にも棒にも掛からないという事ですが、これは私も大賛成です。現代的な言葉に置き換えますとコンプライアンスです。法令遵守、決められたルールを守る精神が重要です。経営者は後ろ指を指されるような事はしてはいけません。自ら悪事を働かないという事がとても大切なのです。この悪事について言えば、昔よく言われていたのは“酒”、“女(異性関係)”、“金”です。これは経営者だからということではなく歴史を紐解けば、為政者もこれらによって道を踏み外してしまった例は枚挙に暇がありません。そうした事から、実はこれは意味深い言葉なのです。その他にもこうした事がきっかけでトラブルを抱え、結果的に反社会的勢力に付け込まれてしまうケースも散見されます。ですから倫理観というものはとても大事だという事です。
2つ目は利他の精神です。この利他の精神というものは、この精神を持っている人はそれこそ社長だろうが政治家、国家元首ですら務められると私は思っています。利他の精神とはつまり他人を慮るといいますか、思いやるということです。この利他の精神を持っている、つまり企業の経営者で言えば社員ファーストの精神です。自社の従業員、その人たちを尊敬し、その人たちが幸せになることを望む、その様な気持ちがあるという事です。これまでも経営者はこういう精神を持っていなければという事をお伝えしてきたかと思いますが、いつの時代でもこれは忘れてはいけないと思っています。
この利他の精神を持っていると、所謂、ハラスメントなんて起きない訳です。企業経営においても社員ファースト、利他の精神はとても重要だという事です。そして私心に捉われないという事も重要です。私心とは、判り易く例えると、手柄は自分のおかげ、失敗や悪い結果は他人のせい、という様な事です。人間みんな自分がかわいいという事は否定できませんが、だからこそ私心に捉われないという気持ちを持つという事がとても重要なのです。
3つ目は謙虚さです。何かをやって貰ったら“有難うございます”という感謝の気持ちを持ち、それを伝える、自分が自分がと前に出るのではなく、一歩下がれる部分があるという事が経営者だからこそ重要だと思います。ですが、経営者、特に起業したばかりの経営者などは一歩下がって謙虚にというばかりでは会社は発展しないではないかと言われればその通りで、経営というものはバランスが重要でもある訳です。
今回は、経営力が大事だ。人間力が大事だ。経営知識が大事だ。計数分析力が大事だ。達意力が大事だ。人間力所謂、倫理観を持っている事が大事だ。利他の精神を持っているか、人に対する思いやりを持っているか。そして謙虚さが大事だ。色々な事を言ってきました。これらを全て兼ね備えていなければ経営者に慣れないかと言うとその様な事はありません。逆にこれらの事を全てやる必要があるなら私は経営者になりたくないと言う方も当然いらっしゃるでしょう。全項目10点満点中10点を取るなんて事は誰だって出来ません。ではどう考えるかというと、自分がこういうところが足らない部分がある、つまり足らざるを知るという事です。その上で足らないところは足りる様に一生懸命努力するという事、これが大事です。そして逆にここの部分について、私は及第しているなと思う部分もある筈です。そういう場合はそこで甘んじる事なく長所は更に延ばす努力をする。こういう努力を続ける事が経営者にとっての大事な一面でもあります。
今回は経営者の力量として求められている観念的な部分についてお話してきました。次回は経営者に求められている具体的な面として実務的な部分についてお話をしていきたいと思います。今回と次回で触れている経営者に求められている観念的な部分、そして次回お話する予定の具体的な実務的な部分について、これは今までお話してきたことの復習という意味合いもあります。
以 上