第128回 千年企業研究会(福井塾)議事録

令和6年4月16日

企業の倒産原因

前回までアート引越センターの話をしてきまして、次は法人税の話に入る予定ですが、本日は少し中休みをさせて頂いて、企業の倒産原因について、お話させて頂きたいと思います。今回はその中でも主な2つについて取り上げたいと思います。

【倒産の原因】
(1)不祥事・・・コンプライアンス違反
以前も株主が嫌う事として、不祥事についてお話した際にも触れた事がありましたが、不祥事をきっかけに倒産してしまうケースが多くみられます。そこで、倒産事例について4つの例を挙げてお話をしていきたいと思います

①医薬品業界での談合事件(独占禁止法違反)
1つ目は九州の医薬品業界で起きた事例になります。国立病院へ薬品を卸す業者が何社かあったそうですが、その競合している業者同士で本来は製品や料金等で切磋琢磨し競争力を高めなければならないところを業者同士で価格を調整しあい談合していた事が発覚した事件です。これは、正しく業者間で競争が起きると治療を受ける患者はより安価に享受出来たであろう治療や医薬品が、談合する事で価格面での競争力が失われ高くなってしまうという事になるのです。談合は独占禁止法で禁止されております。少し話が逸れますが、談合には官製談合と呼ばれる国の事業での談合があります。国の事業というと道路や河川、橋梁の工事等が多い事もあり、一時期、建築業界において、この官製談合が摘発される事が多かった様な印象があります。道路や橋梁等を受注する為に競争の原理が働くと受注額が下がりますので、その工事に投じられる国民の税金が少なくなる訳ですが、談合する事でより多くの税金を公共事業に投じられますので、この官製談合は国民としてはとんでもない重罪であると言えます。

②大手自動車メーカーの不正事件
2つ目は大手自動車メーカーで起きた不正事件です。自動車メーカーは自動車の性能テストを行い、その試験データを基に認証試験を受け、更に基準適合性の審査を受けてから市場に出てきます。その審査を受ける為に申請するテストデータを操作したり試験結果を偽装したりしていた事が発覚し大事件となりました。結果として全工場の稼働を1カ月以上の長期間に亘り停止しております。この不正が行われた背景としては“過度なコスト削減”や“短期発”、“安全性よりスケジュール優先”等、色々と指摘がありますが、根本的な原因としては所謂“上からの指示があったから”だと言えます。上司の指示を断るのは非常に困難を伴う事は十分承知でお話しますが、サラリーマン、言い換えると中間管理職という立場は階級社会において、こういった上の立場の者から不正に関わる指示があった場合、信念をもって断ることがとても重要なのです。
これに関する事で最近の報道を見ていて思った事ですが、メジャーリーグの大谷選手と元通訳の水原容疑者に関わる事件における大谷選手の対応について触れたいと思います。この事件について、最近連日のように報道されていますので皆さんもご承知かと思います。水原容疑者の違法賭博・不正送金が発覚し、ロッカールームで水原容疑者がギャンブル依存症を告白したと言われていますが、その後、大谷選手と 2人きりの場で水原容疑者が「借金を肩代わりした事にしてほしい。」と大谷選手に口裏合わせを依頼し、大谷選手はこれを拒否したという話も出てきています。この事件が発覚する迄の大谷選手と水原容疑者の関係性は選手と通訳という範囲に収まらず、相棒や親友とも言われる関係性で有名でした。その事を踏まえ、もしこの時に大谷選手が口裏合わせの依頼を断らなかったら、大谷選手は MLBから永久追放される可能性もあったのではないかと思います。ですが、大谷選手は断固として拒否し、毅然とした対応をとったという事がとても重要なのです。大谷選手の野球選手としての才能は万人が認めると言っても過言ではない程のものですが、それだけではなく、大谷選手はその人柄やプレー以外での行動も大変素晴らしい事で知られています。世界中から注目を浴び、子供たちの憧れでもあり、将来の野球界の発展に果たす自分の役割もきちんと自覚した行動をとられています。そういった自分の立ち位置や役割をきちんと自覚し、コンプライアンスを重視した判断を下す事が重要である事は誰もが判っている事ではありますが、追い詰められた状況や差し迫った状況で、瞬時にこの判断を下す事が出来るかというと誰もが出来る事ではありません。一流の人物は信念をもって判断をしていると言えるのではないかと私は思います。大谷選手の今回の事件での対応の様に、皆さんには是非信念をもって判断を下して頂きたいと思います。

③コンサルティング会社での労働基準法違反事件
3つめはコンサルティング会社での労働基準法違反です。コンサルティング会社では今でも比較的残業が多い傾向があると言われていますが、そんな中でもあるコンサルティング会社では長時間労働が常態化し、ある意味パワハラ的に業務が終わるまで仕事をさせる、終わらなければ家に持って帰ってでもやらせるといった事や、長時間労働をしているという事は時間外労働が発生しているという事ですが、それにも関わらず時間外手当が未払いであったという労働基準法違反により役員や管理者等が逮捕ではなかった様ですが書類送検されています。

④助成金の不正受給事件
4つ目はコロナ禍での雇用調整助成金の不正受給です。コロナ禍で行動制限を受け、旅行業界も大打撃を受けておりました。そんな中、各企業が申請し受給していたのが雇用調整助成金でした。この助成金は休業した日や従業員を教育訓練させた日の分について助成金の対象となる制度ですが、その助成金を受け取る為に実際には従業員が出勤し労務に就いていたにも関わらず休業日や教育訓練日であると虚偽の申請を行い、莫大な金額の助成金を不正に受給していた事件です。この事件では結局は受け取った助成金の全額、それも 100万円や 200万円どころではなく、1億円を優に超える金額を返納し、担当役員や担当者も処分を受けたそうです。

(2)粉飾決算
倒産原因の2つ目として挙げるのは“粉飾決算”です。何故粉飾決算をしてしまうのか、その理由について纏めると大きく3つのケースに分類できます。

・利益が少ないから多く見せる為金融機関などへの対応の為
・利益が多いから少なく見せる為税金対策
・担当者が横領することを目的にとても稀なケース

粉飾決算の動機として3つ挙げましたが、3つ目はとても稀なケースです。よくある動機としては金融機関から融資を受ける為や株主対策等、資金調達の為に利益が少ないと都合が悪いので利益を多く見せようとして粉飾決算に手を染めてしまうケースです。次にこれとは反対に、利益が出過ぎて税金の納付額が高くなってしまうので、少しでも納税額を少なくする為に利益を少なく見せかけようと粉飾決算に手を染めてしまうケースです。

粉飾決算にも傾向があり、特に操作しやすい、つまり粉飾しやすい勘定科目があり、その勘定科目の事を「粉飾3兄弟」と呼んでいる方もいます。

残念ながら、この様にそれぞれの理由により利益を多く見せたり少なく見せたりし粉飾するという不正に手を染めてしまう事件が後を絶ちません。
今回は企業の倒産原因のうち主なものとしてコンプライアンス違反による不祥事の事例4件の紹介と、粉飾決算についてその中でも「粉飾3兄弟」とも呼ばれる粉飾しやすい勘定科目についてお話を致しました。
次回からはいよいよ法人税についてお話をしていきます。次回5月は法人税の概論的なお話をし、6月以降は各論的なお話をしていく予定です。できれば次回5月の概論は聞いておいていただいた方がその後の各論がより理解いただけると思いますので是非ご出席ください。

以上