第132回 千年企業研究会(福井塾)議事録
令和6年10月15日
法人税について(2)
これまでレジュメに拘らないでお話をしてきましたが、今日からは出来るだけレジュメに沿って話をしていきたいと思います。レジュメ記載の「法人税とは」から始めたいところですが、導入という事で少し脱線して、皆様方が勉強する意欲に繋がるんじゃないかと思った話を今日は冒頭に用意してきました。皆様方が社会人になって知識を得ようとする事には色々な目的がありますが、社会人が勉強する=実益になります。要するに「お金儲け」と言うと直接的ですが、勉強する事で得をする事になります。特に法人税とか会計学を勉強すると、無駄な費用の削減や、無駄な税金を払わない様、節税しようという考えになる。そういった知識がある事で実益に繋がる話があり、個人的に衝撃的だったお話をしていきます。
㈱武富士の節税
かつて消費者金融最大手の武富士という会社があり、節税対策で「ある出来事」がありました。これは法人税ではなく、相続税の話となりますが、武富士は一族経営で、相続税の節税の一環として、香港に現地法人を作り、その現地法人の社長に、創業者の長男を据えました。その現地法人は、日本の武富士本体の株の大部分を所有しました。そしていざ相続が始まった時に長男が大半を相続する事になりました。その資産の大半は、武富士の株であり、その株は、香港の現地法人が持っている訳です。どうなるかというと、当時の相続税の法律では、国外にある資産というのは関係がなく、相続税の対象外という法律でした。海外で一生懸命活躍してその人が作った資産は、そもそも相続税の必要がないんじゃないかという事だったんでしょう。もちろん細かいところは判りませんが、結果として、武富士のご長男は相続税を殆ど日本で残っている株の分くらいしか支払っていないという訳です。ただし、それを見た法務省なのか、税務当局が、これはとんでもないと、これはもう脱税そのものだ、徹底的に絞り上げてやるという事で、当時の国税局が動いた訳です。武富士の資産価値は当時2,600億円位と示唆されていたので、相続税率がどの位か判りませんけれども、約1,300億円の節税が出来たと言われています。国税局にしてみれば、とんでもない、1,300億円が取れるか取れないかの瀬戸際で、これを許したら国民に怒られてしまうと、この海外資産も相続財産であるから課税すると通告しました。この課税処分を不当とし、長男は裁判を起こしました。
この裁判の論点は長男が現地にいたのかというところでした。当初は時々日本に帰ってきたりとの事でしたが、実態は殆どが日本にいたそうです。長男のビジネスの活躍の場が日本だったとすれば、海外居住者とは言えないという事で、地裁・高裁で敗訴した訳です。ただし、結果としては最高裁判所で逆転勝訴となりました。最高裁は色々と調べ、必ずしも長男の生活の拠点が日本だとは言えない事、当時の相続税法をしっかり読んだうえで、これは要するに現地法人における海外居住者の資産なので国税局といえども相続税を支払って貰える状況にないとなった訳です。
長男が勉強したのかどうかは判りませんが、恐らく自身でも税金をどうしようか、何か方法がないかというのを模索し、顧問税理士にも当然聞いたと思います。その中でこの方法だったら節税出来ると判断したのでしょう。
脱税はもちろん絶対ダメですが、節税というのは許される範囲で利用するべきです。これから法人税について、色々な事を勉強して貰いますけれども、今はこの海外居住者のその現地法人に会社の株を移すといった手口はもう駄目です。法改正により、この手は利用出来なくなっています。ただ他にやり方はないのか、我々は色々な事を学んでいけば、その時々の対処の仕方が判ってくると思います。ですから、皆様方にはこういった月に 1回30分程の話ではありますが、復習しろとは言いませんので、話に出てきたその言葉の定義をしっかりと身につけて貰いたい。一つの英単語を覚え、単語帳を作る位の感覚で、何か新しい言葉が出てきたら、単語帳にその言葉を書いて、裏にその意味合いを書いてみたりして、そうやって学んでいく事、慣れる事が非常に重要だと思います。
法人税とは
本日はレジュメに沿ってという事で、税の分類、法人3税と実効税率という言葉から入っていこうと思うのですが、実効税率が何かという事を説明する前に、法人税の中の分類のひとつに、国税と地方税がありますので、少し触れたいと思います。
国税は国に納める税金で、地方税は地方自治体に納める税金です。その知識があるだけで、何かを問い合わせる時に、国税だったら、例えば法人税とか所得税と、この国税だったら、国税庁の管轄税務署と、何処に聞くべきか判る訳です。
それから地方税、例えば法人住民税だとか、単なる個人の住民税とか、事業税だとか、固定資産税、自動車税、これらは地方税となります。
我々は常識として、国税と地方税があるという事、国税には法人税、所得税が入り、消費税については、ご存知かと思いますが、10%のうち、2.2%は地方税で、7.8%は国税となります。二つに分かれますけれども、消費税はどちらかというと国税という認識が強いです。
地方税には住民税だとか、固定資産税だとか、そういったものがあります。固定資産税を聞いた事がない人はいないと思いますけど、固定資産を持っていると、持っている人に対して、法人だったら、その法人に対し、個人で土地や家を持ってるとかであれば、それは固定資産税が掛かってきます。
次に、普通税と目的税、これも皆さんご存知だと思います。普通税っていうのは、資金使途を問わない税率で大体が普通税です。目的税というのは、資金使途が限定されている税で、一番代表的なものは自動車税です。資金使途が道路の整備等に限られている訳です。我々はもちろん税金を納めてます。特にサラリーマンは人事部が給与所得として、会社が源泉徴収して納めてくれてますから、税金を納めてるという認識はあまりないのですが、とんでもない話で、多額の税金を払ってる訳です。そういう意味では、その税金が何に使われてるのかという事には常に関心を持つべきです。
3番目の分類としては直接税と間接税があります。これも、もう知らない人いないと思います。直接税は、所得税や住民税等、我々が税金を納めてるものです。有難い事に人事が代行して納めてくれていますが、本当は自分でやらなきゃいけないんです。それだと大変だろうから、代行出来ますよという法律がちゃんと出来ています。源泉徴収制度という制度が、所得税法の中にあります。我々が自分で計算して自分で納めると、今度は税務署の手続きが大変です。なので源泉徴収制度で代行して納めて貰う事で税務署は非常に手が助かってる訳です。因みにこうした制度はアメリカにはありません。アメリカは、ものすごく徴収制度が厳しいです。日本は上手な制度を、戦後間もなく、こういうのを作っておいたらいいとかアメリカの勧告で作られたんじゃないかなと思います。
税を負担する人を担税者といい、税金を納める人を納税者といい、夫々が別となるのが間接税といい、その代表が消費税となります。消費税は、自分が例えば、洋服を買いに行って、こちら10,000円ですと言われたら10,000円では済みません。ご承知の様に11,000円取られます。この1,000円について何だとは誰も聞かない、10%の消費税です。じゃあ自分で納めるよといっても、いやいや駄目なんです、今の制度は売った人が、購買者から消費税徴収しなさい。それで、あなたが担税者に代わって納税しなさいっていう制度になっているからです。
あと本日覚えて頂きたい言葉が直間比率、直接税の直と間接税の間、つまり直間比率は直接税と間接税の割合です。日本で言えば、間接税、要するに消費税や、酒税は上がっています。たばこ税なんかも間接税となっており、何故こんな話をするかというと、昔は間接税というものは、殆ど無かったからです。割合で、95対5位でした。でも消費税が出来て、当時65対35、だんだん増えてきて、今は60対 40ぐらいで、間接税、要するに消費税の割合がものすごく増えてきてる訳です。では、何で消費税が増えてきてるかというと、直接税の主たる法人税は、景気が良い時と悪い時が極端で、税額全部で30兆円ぐらい集まったという時もあれば、不景気で赤字なので税金は 0とまではいきませんけども、その位にアップダウンがある訳です。いざ景気が悪くなって、景気悪いからこそ、税金を使って景気を浮揚させようと考えても、税の原資がないと、いざという時に使えない訳です。景気が悪いと法人税も落ちてしまう、所得税だって多少減ってしまう、もちろん消費税だって買い控えするから減ります。減りますが、直接税と比べたら景気にあまり左右されないという事で、安定的に税金が取れるっていう意味で消費税っていうものが、30年ぐらい前ですか、最初に導入された。かなり安定してきて、消費税も多いから、今の選挙じゃ、景気悪いんだから、消費税廃止しろとか、2%減らすべきだということを言ってますが、さすがに自民党はそんなこと一言も言わない。なぜか、消費税を半分に減らすと、今30兆円ぐらい消費税があるわけですが、その半分15兆円減らしたら、どこからこの原資とってくるのかとう話になります。年金や健康保険を止めたり、半分にしますけど、それでいいなら消費税下げますじゃ誰も納得しません。
大企業の自己資本が積み上がって200兆円とも言われ、利益勘定があるなら税金払えとか、そんな話になったら儲けようなんて気が無くなってしまいます。それをまた更に、税金を掛ける、後で二重課税の話も出てきますけどね、これも禁止されてる訳です。二重課税の禁止、そういう事も知らないで政治家はここに税金掛ければいいと言っている。配当金にも、二重課税という問題があるが、細かく色々と話すと長くなりますので、また今度という事で、今は直間比率という言葉を覚えて頂きたいと思います。
この直間比率という言葉にはもう一つの意味がある。人事分野での直間比率、これは本社の人、つまり間接的に業務にかかる人と、現場、工場等の直接業務に係る人の比率を、直間比率って言います。例えば、直接的な生産性に寄与してない本社のニーズを減らして、それを現場、支店とかに充てて生産性を高める。その様な仕事に従事して貰おうという意味で、我が社の直間比率は2割だとか、この様な使い方で直間比率っていう言葉を使うケースもあります。この講義は皆さまが経営者になったらという目線でお話させてい頂いているので、経営者目線で言ったら、直間比率はこちらの意味合いで使うことが多いと思います。是非併せて覚えて頂きたいと思います。次回は更に細かく実効税率の話からやっていきたいと思いますので是非ご出席下さい。
以上